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―――ねえ、みんなぼくを置いていかないで。どうして、ぼくをひとりにするの? ぼくが悪い子だから? ぼく、良い子にしてるよ? だから、ねえ、はやくぼくをここから連れ去って―――。
「―――…ん」
「……夏井様? お目覚めになられたのですね。良かった……」
部屋の明かりが眩しくて目の奥が痛む。ゆっくりと瞼を開けていくと、傍で宮間さんがこちらの様子を窺っていた。
「……宮間さん」
「お加減はいかがですか? お辛くはないでしょうか?」
ぼくは小さく頷いた。左腕に違和感を感じて視線を遣ると、点滴をされていることに気が付いた。お屋敷の部屋でなぜ、とは思ったがあまり深く考えることはしなかった。
「なかなか目をお覚ましになられないので、大変心配したのですよ」
「……いま、何時ですか」
喉が張り付いたように声が出しにくく、水分が奪われ掠れている。宮間さんは、ペットボトルの蓋をあけてミネラルウォーターを飲ませてくれた。
少し口元から溢れて流れ落ちると、宮間さんがハンカチで丁寧に拭き取ってくれた。
「いまは、十六時でございます。ですが、夏井様は丸一日眠られておりましたので、一日日付が変わっております」
ぼくはそれを聞いて、真っ先に仕事のことが頭に浮かんだ。やってしまった、と後悔する。ぼくの思いを感じとったのか、宮間さんが教えてくれる。
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