番の契りを結ぶ方法

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「向井様という方から、ご伝言をお預かりしておりますよ。『仕事のことは気にするな、しっかりと休め』それから『入社五年目をなめるなよ』と仰しゃっておりました」  小さく笑いながら向井さんの真似をした宮間さんに、ぼくも表情が和らいだ。向井さんには感謝してもしきれない。体調が回復したら、ちゃんとお礼を言わせてもらおう。  宮間さんの話によると、目を覚まさないぼくを心配して志津野家かかりつけの医者を呼んでくれたらしい。脱水症状と栄養失調を防ぐために、医者が点滴を処方してくれたようだ。 「そうそう。体調が落ち着き次第、澪様が夏井様にお話があると仰っておりました」 「澪さん、が……?」 「はい。とても大事なお話だと、仰しゃっておりましたよ」  大事な話……。  ぼくは気を失う直前のことを断片的に思い出した。あのとき、ぼくは湊くんとキスをしてしまったのだ。それで、湊くんが意味のわからない言い訳をしていた。  番になりたいからキスをしたと湊くんは言っていた。番とキスがどう関係しているというのか。  鈍った思考では何も思い浮かばず、ぼくは諦めて目を閉じた。  こればかりは、思春期だからという理由だけで片すことはできない。  ……ぼくの、ファーストキスだったのに。
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