それを運命という

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 「お待たせしました」 後ろから不意に声を掛けられ、俺は振り向いた。 そこには、まだ高校生と言っても過言でないほどの少女が立っていた。 「アンタ、田中さん?」 「そうです。あなたが加藤さんですね?」 その少女はニコニコ微笑んでいた。 まさか、こんなあどけない少女が、売人だなんて誰が思うだろう。 俺はてっきり田中は男だと思っていたのだ。 田中っていうやつがそこに行くから待ってろとボスから連絡があったのだ。 田中ってやつは、襟元に三つ葉のマークのバッジをつけている、と聞いていたので俺がその娘っ子のジャケットの襟を見やると、確かに三つ葉のマークのバッジがついていた。 ただし、あまりの幼さにそのバッジは校章にも見える。 「へぇ~、アンタみたいな若い子がこんな商売してるなんてねえ」 「えー、いくつに見えるんですかぁ?私」 「高校生くらいには見えるよ」 「ホントですかぁ?わぁ、嬉しい!」 その娘はキャッキャとはしゃいだ。 「とりあえず、車に乗ってよ」 俺が促すと、田中は失礼しまーすとおどけて車に乗り込んできた。 どうにも調子が狂ってしまう。 この女には、薬の取引という緊張感が全く感じられない。 「ここじゃあまずいから」 そう言うと、俺は車を発進させた。 「ですよねー。こんな所ではね?」 女は助手席から意味深な笑いを俺に向けた。
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