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1-01-1 憧れの人(1)
僕は、ずっと前から好きな人がいる。
出会いは小学生の時。
最初はただの憧れだった。
それがだんだんと「好き」に変わっていった。
いや、後からそれが好きだと、恋だと自覚した。
初恋。
僕の名前は、青山 恵
中学時代はこの生まれ育った土地を離れ、遠く離れた中学へ通っていた。
それが、高校で再び、小学校の頃の思い出の詰まったこの美映留市に戻ってきたのだ。
それは本当に偶然だった。
入学したての新しいクラス。
緊張と期待で興奮冷めやらぬざわつきのなか、僕は隣に座る人物を見た。
そして、驚いて目を見開いた。
初恋の彼が、僕の横に座っていたのだ……。
彼の名前は、高坂 雅樹
体型はがっちりとしたスポーツマンタイプ。
顔立ちは、切れ長の目で鼻筋が通り、涼しげな印象。
それでも、小学生の時の面影を十分に残している。
鼓動が早くなり、彼以外の景色が霞む。
僕は、おそるおそる声を掛けようとした。
でも緊張で声が出ない。
そんな僕に気づいた高坂君は、僕の方を見る。
「初めまして、よろしく。俺は高坂だ」
にっこりして微笑む。
あぁ、彼とこんなところで再会できるなんて。
ドキドキが止まらない。
「よろしく。初めまして。僕は青山といいます」
僕は辛うじてそう答えた。
でも、「初めまして」だなんて……。
僕のことはすっかり忘れているんだ。
再会といっても、一方通行。
高坂君は本当に僕のことは忘れているようだった。
名前を聞いても思い出さない。
それはいいとしても、僕の顔、姿を見ても思い出さないなんて……。
僕は、もともと病弱だったせいか、男らしいとかたくましいとかに縁がない。
だから、いまでも小柄で色白。
顔も小学生の頃からあまり印象は変わらないはず。
声変わりだってしていない。
だから、背こそ伸びたけど、あの頃のままといってもいいと思う。
それでも、僕のことを思い出さないとなると、よほど、高坂君の中の僕の印象って薄かったということになる。
悲しい……。
でも、いいんだ。また、一緒の時間を過ごせるんだ。
それだけで、こんなに嬉しい。
最初はそう思っていた。
でも、だんだんと、眠っていた高坂君への思いに火が着いてしまったことを自覚していた……。
そして入学して数週間が過ぎたある日。
高坂君から呼び出しがあった。
放課後、校舎の中庭。
この時間、大方の生徒は帰宅しているか部活動をしているかなので、中庭にひと気はない。
僕は花壇の淵に座って、桜の木を見上げる。
花はすでに散って、葉桜になっている。
「呼び出しなんて何の用事だろう……」
教室では言いづらいこと、っていうのはわかる。
きっと、頼み事の類。
でも、なにか不安で落ち着かない。
しばらく待っていると、高坂君がやってきた。
僕は立ち上がると、
「そのままでいいよ」
と高坂君は言って僕の隣に座った。
何を言われるんだろう?
僕は目を伏せて地面をみつめる。
しばらくして高坂君が切り出した。
「なぁ、青山……」
僕は高坂君を見る。
「俺のことを、ずっと見ているよね。恥ずかしいから、やめてくれない」
えっ!
僕は動揺した。
そんなことを言われるなんで、思ってもみなかった。
僕が高坂君をずっと見ているだなんて……。
目を閉じる。
あぁ。
そうだった。
確かに、ずっと高坂君のことを見ていた……。
自覚はある。
知らず知らずの時もあるだろう。
高坂君はそれに気づいた。
そして迷惑に思った。
ということだろう。
僕は自分が小刻みに震えていのが分かる。
嫌われてしまった。
「ごめんなさい……」
「じゃあ、そういう事だから……」
そう言うと、高坂君は立ち上がった。
そして来た方向へ歩きだす。
ここで、高坂君を行かせたら、ずっと、嫌われたままだ。
そんなのは嫌だ。
「待ってよ!」
高坂君の足が止まる。
振りむくと、「なに? 何か用?」と続けた。
「僕が高坂君を見ていたのには理由があるんだ!」
「理由って?」
「そっ、それは……」
僕はためらった。
でも、ここでちゃんと言わないと駄目だ。
思いを告げるなら、今をおいて他にない。
僕は勇気を振り絞る。
「僕は、高坂君のことが好き……」
目をまっすぐに向ける。
「だから、高坂君のことを見ていたんだ」
体が熱い……。
気持ちが高揚しているのが分かる。
顔が火照っているのを感じる。
「高坂君、僕と付き合ってくれませんか!」
高坂君は目を見開いている。
驚いた様子だ。
いきなりの告白。
しかも、男からとなれば、驚かないほうがおかしい。
そして、答えは考える間もなくノーだ。
例えば、男には興味ないから、と。
それが普通だ。
高坂君も、そう考えているだろう。
でも、告白したことに後悔はない。
すがすがしい。
そう、ずっと思っていたことだ。
それが、高坂君との偶然の再会を経て、思いを告げられた。
本来なら、ずっと心の奥底に閉じ込めていた思い。
振られてもいいんだ。
僕はうつむいたまま、彼の言葉を待った。
高坂君は、僕に詰め寄り怒った口調で言う。
「青山、俺をバカにするのか? 俺は男だぞ」
「僕はバカにしてない。本当に、本気で、高坂君のことが好きなんだ」
僕は唇を噛んだ。
「本当なんだ……」
悔しい。
うまく伝えることができない。
どうせ断られるのに僕はなにをムキになっているんだろう。
そうか、振られてもいいんだ。
でも、僕の言葉だけは信じてほしい。
これだけは、譲れない。
僕がずっと思い続けた気持ち。
それが嘘になってしまう。
それだけは、嫌だ。
高坂君はしばらく僕のことを見ていた。
「なぁ、青山って、男が好きなのか?」
「男とか女とかじゃないんだ。高坂君だから……」
「ふーん。そうか。でも、急には信じられないな。男同士だし」
僕は知らず知らずに涙が出ていた。
頬を伝わる涙をぬぐう。
「青山、お前、男同士が付き合うってどういう事か、知っているのか?」
「えっと、その……」
僕は口ごもる。
「なんだ。知らないみたいだから、教えてやるけど」
高坂君は僕に近く。
そして、耳元で言った。
「本当に俺が好きだって言うんだったら、俺のをしゃぶることができるか?」
僕はぽかんと高坂君を見る。
「フェラだよ。男を好きになるっていうことはそういうことだ」
「どうして……」
僕は動揺して言葉に詰まる。
高坂君は、そんな僕を見て笑った。
「ははは。それが当然の反応だよ。気持ち悪いだろ? 男のをしゃぶるなんて」
高坂君は僕が戸惑うのを予想してたかのように話し出す。
「だから、青山、この告白は取り消しな。きっと気の迷い、ってやつだよ。俺も忘れる。誰にも言わないのは約束するよ」
高坂君は僕の頭を優しく撫でる。
そして、「じゃあな」といって踵を返した。
僕は、高坂君の真意をすぐには理解できなかった。
僕の告白を信じていない。
男同士だから……。
違う!
そんなの関係ない。
あぁ、どうしたら、この気持ちが本気なのか伝わるのだろう。
高坂君は、フェラをできるかって言った。
それが高坂君の望みではないにしろ、仮にでも僕にできるだろうか。
他の誰でもない、高坂君なら。
きっとできる。
それで僕の本気が伝わるのなら……。
僕にだって意地がある。
このまま、僕の気持ちを嘘にすることはできない。
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