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 多久森さんはベンチに座って足を組み、行き交う生徒たちに目を向けていた。 私はお城の塀によじ登る忍びのように気配を消して、多久森さんの座るベンチの隣のベンチに、彼の視界を避けて斜め後ろ側から腰かける。そしてバッグの中から大好きな文庫本を取りだし、読むふりをしながら横目で多久森さんを見つめた。  ……大丈夫、全くこちらの様子を気にしている気配はない。そのまま横目で観察を続ける。多久森さんの真実を一つでも多く暴きたくて、しばらく様子をうかがうことにした。  通りすがりの女子たちに「多久森さんバイバーイ」と声をかけられ、にっこりと微笑みひらひらと手を振ったり、「あれが多久森さんじゃない?」と興味津々な女子たちに「一緒に写真取ろうか?」などと気さくに話しかけたりしていた。 「多久森さん、ライブあるからよかったら来て下さい」と軽音部らしき男の子たちにも声をかけられていたので、「ギターが上手い」と「歌が上手い」、は十分にありえそうな噂話だとわかった。  
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