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知事になった彼は、すぐに仕事に取り掛かった。米軍基地の周辺で毎日抗議デモを行った。嫌われ者とはいえ、知事がデモを行うというので、多くの人々が集まった。その人混みにオスプレイが落ちるのは時間の問題だった。
だが、いくら人が死のうが、沖縄がアメリカの軍事作戦において地理的優位性を持っていることは変わらない。それに、基地がなくなれば、中国漁船による密漁への抑止力もなくなってしまう。彼はそれを理解していた。そして、強引な解決策を実行した。
まず、沖縄遠海部で核廃棄物を沈めることで近辺の魚を死滅させ、中国漁船を寄り付かせないようにすることに成功した。そして次に、台湾に宣戦布告をした。近くに敵国があることで、米軍は沖縄基地に存在意義を見出せず、移転を考え始めた。
しかし、どの県も都も府も道も移転を拒否した。それはもちろん、歯舞諸島の住民もだ。移転計画は振り出しに戻るかと思われた。だが、彼は相変わらず頭の切れる男であった。
日本国民には、択捉島以外の北方領土は取られても問題ないという暗黙の共通認識が存在した。その他の島は排他的経済水域に影響するわけでもないし、あと15年もすれば元島民も全員亡くなるであろうから、その時に適当にロシアと折り合いをつければいいのではないかと皆が心の中で思っていた。彼はそれを利用した。
彼は、色丹島に米軍基地を建設することを提案した。もちろん、ロシアは猛反発した。ロシアの国内に米軍基地が存在することは、明らかにロシアの国際的権威を下げることであったからだ。しかし、彼は国際世論を味方につけた。中国や北朝鮮は米軍を遠ざけたかったし、ヨーロッパ諸国もロシアの面目を潰したかった。東南アジア諸国は中国のさらなる進出を嫌がり、移転案を批判したが、途上国なので特に影響はなかった。さらに、日本政府も北方領土は日本の所有物であり、主権は日本にあることを主張したかったので、移転を扇動した。
結果、彼の思い通り、北方領土は米軍基地に移転することとなった。彼のおかげで、沖縄の湖と平穏な生活は守られたのだった。唯一困ったのは、暇な活動家である。目標を達成して、生きがいがなくなってしまった。ただ、彼らはお子様ランチに日の丸の旗を掲げるのに反対するという新たな活動を見つけたらしい。
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