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軽く挨拶を交わし
先生が私を抱き締める。
大きな胸板
大きな腕、
洗いたてのシャツの香り、
息を切らして走ってきた後の、わずかな汗の匂い。
大好きだ。
本当に大好き。
でも、私の中のなにかが、先生を抱き締め返すことを躊躇う。
それはダメだと、私の感情に抗う。
そして、先生は私の耳元で囁いた。
男の人の、とてもきれいな弱音で、私に愛を囁く。
もう・・
もう抗えない・・
この温もりが、たまらなく私を溶かす。
『先生、はじめて会ったとき、私の演奏した舟唄を誉めてくれた。
ねぇ、先生、水面をたゆたうゴンドラのように、私を乗せてあの川の向こう側の街まで連れ去ってよ。』
私の想いは、朝風にかき消されたまま、先生には届かない。
川の向こうにぼんやり見える街並み。
そして、闇に染み込ませるように拡がる光。
もう朝焼けが拡がっている。
日常が眼を覚ます。
もう、戻らなくてはいけないのに。
もう少しだけ、
お願い。
もう少しだけ、このままいさせて。
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