朝焼けの黄昏

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 私があの人とふたりきりで会えるのは、いつも朝焼けのこの時間。 この時間。 この時間だけ。 あの人は携帯電話を持っているけど、私は持つことが許されない。 私は、親の言いつけのまま、街から隔離されたこの修道院女学校に入学した。 院則が厳しい修道院女学校の寮生活では、制服はもちろん、寝衣も統一されている。 だから、 携帯電話の持ち込みも、当たり前のように禁止されている。 この修道院女学校で許されている芸術は、絵画か音楽のみで、入学時にどちらかを選ぶ。 私は音楽を選んだ。 だから、私にとって、この修道院女学校では音楽だけが唯一の娯楽でもあった。 ピアノだけが唯一の楽しみだった。 あの日までは・・。  あの人を好きになったのは、私の方からだった。 あの日の音楽の時間で、 あの人は、私の演奏を聴いてくれた。 ピアノで演奏した、フォーレ作曲の舟唄の1番を、とても誉めてくれた。 『水に浮かぶ街並みの中をたゆたうゴンドラ。 櫂を漕ぐ毎に砕けて広がる水面が、街並みを揺らす。 その情景が浮かぶようだった。 とても美しい表現だった。』 そう、言ってくれた。 私にとって、ピアノは演奏できて当たり前だった。 幼い頃から練習していたから当然だ。 でも、自宅で過ごしていた頃は、誰も誉めてくれることはなかった。 だから、嬉しかった すごく嬉しかった。
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