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月・水・金曜日に行われる管弦楽のレッスンは、指揮者を通して行われている。
あの人は、指揮者としてそこにいた。
管弦楽のレッスンでは、基本的にピアノは必要ない。
だから、ピアノしかできない私は、レッスン風景を遠巻きに見守るしかなかった。
自分の演奏の心配をしなくて良い分、仲間の音楽は安心してゆったりとした気分で聴けた。
そんな日が何日か続いた日、そんな私を見かねたようにあの人が言った。
「ねぇ、きみ、ベートーベンのピアノ協奏曲5番やってみない?
きみなら出来ると思うんだ。」
私は一瞬で舞い上がった。
あんな大曲をするのか。
そのメインとなるピアノを私に任せてくれるのか。
ピアノ協奏曲では、ピアノの伴奏を管弦楽が行う。
私は、あの人の1番近くにいることができる。
ピアノ協奏曲は、基本的に暗譜だ。
そして、ピアノの演奏にあわせて指揮者がタクトを振る。
私は、もう、あの人の虜だった。
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