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「202はあそこ。ほら、部屋の横にあるプレートに書いてあるでしょー、2、0、2。」
特に会話も無いまま空閑の後を付いていっておよそ10分。
無駄に広い廊下や長い階段を上り、教室のある本館とは少し違う雰囲気の、生活感のある寮館にやってきた。
ここは一度案内されたことがあるから見覚えがある。
似たような扉がいくつも並んでいる廊下の前で空閑は立ち止まると、一番奥から4つ手前にある扉を指差して言った。
たしかに部屋の横についた白いプレートに、202の文字が見えた。
「じゃあ僕はもう用はないから戻るねー」
空閑はそういうと、元来た渡り廊下の方へくるりと向きを変える。
「あ、待ってくださいっ‥」
慌てて氷室が呼び止めると、空閑はめんどくさそうな表情を浮かべて氷室を振り返った。
「‥なに?まだ何かあるのー?」
「いや、あ、あの、ありがとうございました‥ほんとに助かりました。忙しいのに、時間とってもらっちゃって、すみません‥」
氷室はまごまごしながらそう言い、空閑に向かって頭を下げた。
「‥‥」
空閑は頭を下げる氷室を無言で見つめ、フッと鼻を鳴らして笑った。
「別に、暇だったから案内してたらあげただけだよー?ただの気まぐれ。次からは迷子になっても知らないからね~」
「あ、は、はい、‥すいません」
「あと、」
空閑は目を泳がせる氷室に顔を近づけた。
「敬語じゃなくていいよって言ったよねえ?」
「あっ‥。すいません、癖で‥!別に空閑さんと距離置きたいとかそんなんじゃないんですけどっ‥う、じゃなくて、そんなんじゃない、よ‥?」
「はぁー‥。まあ何でもいいけどさー、やっぱりいいよ、敬語でー。」
空閑は申し訳なさそうな表情を浮かべる氷室を見下ろし、呆れたようにため息をついた。
「ていうか僕もう行くから。部屋に荷物は全部届いてると思うよー」
「あ、はい、すみません、ありがとうございました‥」
氷室の言葉を全て聞き終える前に、空閑は歩き出し、先の階段へと姿を消した。
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