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今日は日曜日。BL会の集まりの日だ! 笑愛が持っていたチケットは、午前の部だ。明け方から降った雨で、アスファルトの道は所々、水溜りになっていた。
朝から、二人で自宅近くの停留所から市営バスに乗る。BL会を嫌う、母に外出の件をどう説明するか、父に相談した。
「午前中、桜は、テラゴヤ学習塾主催の、高校生向け無料講座に行く」と、父が方便として、うそぶいてくれることになった。
バスの乗れば、休日の朝にも関らず、多くの人で混雑している。
市で一番大きなコンサートホール前バス停で、笑愛とふたりで降りた。乗っていた人の大半は、ここが目的地だ。
運転手さんだけになったバスが、日曜の朝、車の往来が少ない道を走り去って行く。
大勢の人だかりで、はぐれないよう、笑愛と手を握る。わたしが頬に熱を感じる。空には虹がかかっていた。
「手握っていたら、笑愛とカップルと思われるかも」
「わたしは気にしないなー。七色の虹、レインボー」
「わ、わ、偶然とは思えない!」
笑愛は口の端を上げている。でも、LGBTは本人がカミングアウトしない限り、例え、親友でも話してはならない。
広い駐車場で、“カップルと思われるかも”と、失礼な発言をした自分が恥ずかしい。
わたしが言いたかったことは、笑愛に、恋人がいたら、悪いっていう意味だった。周囲の同性で手を握る人たちが多い。
「わ、わたしも気にしない」
「桜、大ホールへレッツゴー!」
コンサート会場の出入り口前は、黒山の人だかりで行列になっており、最後尾に並ぶ。
列が徐々に前に進んだ。コンサート会場のエントランスホールに、足を踏み入れた。
壁際では段ボール箱が積まれている。その前で、ボランティアスタッフさんらしき人が、何かを配っていた。
長机の前に紙が貼られていた。“ご自由にお取りください”の文字が書かれている。
受け取っている人を見れば、無料のペンライトだ。参加者全員分はなく、早いもの勝ちだかもしれない。
笑愛に腕を絡めながら、小走りになり、さっとを2人分受け取る。
〈ありがとうございました〉
二人の声が被る。大ホールに入れば、千人近くの人が席についている。皺になったチケットを取り出して、自分の席を探すが、チケットが破れかけて読めない。
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