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だが、何も今で無くとも、と思う。
珍しく甘い雰囲気が崩れ、いつも通りになってしまっていた。
「悪いが、何も今じゃ無くとも・・・」
「うちは」
また、にっこりと笑う。
「山南はんのことが知りたいんどす。旦那様になるお人んこと、一つでもぎょうさん」
「・・・っ」
「あかんどすか?」
こてり、と首を傾げた。
簪の飾りがしゃらりと揺れる。
全く、明里には絶対にかなわない。
そんなことを考えながら、山南もゆっくりと笑みを作った。
「駄目だよ、明里」
「え?そら、知られたくへんこともあるやろうけど、うち・・・」
「敬助と、呼んでくれないと」
そっと、明里の柔らかそうな唇をふさいだ。
一瞬気づかず、固まった明里の体を、今度は強く引き寄せる。
「駄目だろう?」
ああ、今が一番幸せかもしれない。
頬を赤らめた明里の顔を見ながら、山南は、頭の片隅でそう呟いた。
明里が、そっと口を開く。
「・・・敬助はん」
そう言って微笑んだ明里の顔を、山南は一生忘れないだろう。
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