藤堂平助

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これから、生まれ育った土地に向かうというのに、新選組副長助勤、藤堂平助の顔は曇っていた。 眉をひそめ、しきりに後ろを振り向いては、何かを思案している。 もう秋も深まり、そろそろ雪がふり出しそうな時期である。 そんな中、平助は江戸に向かうため、まだ明ける前から旅行李を担いでいた。 その目は酷く不安気だ。 何も、屯所を離れるのが寂しいというわけでは無い。 ついこの間まで江戸に滞在し、昔の剣の師を訪ねて、その人を連れて戻ったばかり。 しかし、仲間との再会を喜ぶ暇も無く、また東下することが決まり、慌ただしい中で出立の日を迎えてしまった。 だからなのか、寂しさよりも、忙しさが上回る。 もちろん隊務であるし、平助はこの仕事を任された事を誇りに思っていた。 しかし、まだ幼さが残った秀麗な顔に、はっきりと不安で仕方がないと書いてあるのは何故か。 この頃、体でも冷やしたのか、総長の山南敬助の具合が良くないのだ。 山南は、平助と同じ北辰一刀流を学んだ同門の先輩である。 十代半ばから一緒に過ごしてきた兄貴分の不調に、まだ二十の平助は心を痛めていた。
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