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落ちてしまった紅葉の代わりのように、京の遊里、島原は今宵も、夜の闇に艶やかに映る。
それにわらわらと群がる男達を掻き分けて、一人の男がゆっくりと歩いていた。
二本差しのその男は、新選組総長山南敬助。
普段は人の良さそうな面立ちだが、今は顔色が冴えず、病人のようにも見える。
カラカラと下駄の音をたてながら入っていった先は、一つの置屋。
二本を預け、二階に上がれば、華やかな化粧をした妓と酒肴。
「明里」
山南は相好を崩して妓に語りかける。
「久しくなってすまないね。ここのところ忙しくって、全く休みが取れないんだよ」
膳の前に座ると、すぐに妓が酒を注ぐ。
「そんな・・・うちのことなんて、放っておいてもろても、かましまへんえ?」
くすくすと笑みをもらす妓の目元は、すっきりとしていて、酷く美しい。
鈴を振るような声にも、どこか甘美な響きがあった。
しかし、甘いが、けして媚びてはいない。
それが、山南にとって、とても居心地が良かった。
今の新選組には、山南の居場所が無くなっていた。
参謀という役職についた伊東が来てから、はや数ヶ月。
初めこそ、山南は、同じ志を持つ仲間が増えたと喜んでいた。
これから共に新選組を作っていく、心強い同士が出来たと。
しかし、山南は体調が悪い。
すると、前は山南がこなしていた仕事が、だんだんと伊東の仕事になっていった。
総長という立場が元々、複雑なものであったから、不安は面白い程に出てきた。
私は新選組に必要な人間なのだろうかと、最近の山南は、事あるごとに自問していた。
けれど、
(そんな弱い自分を、愛しい女の前でさらけ出してはいけない)
山南はそう決めて、溜め息は吸い込み、胸のうちにしまった。
「それじゃあ、私が寂しいよ」
眉を下げ、困ったように言い返す。
それを見た明里はますます唇をほころばせる。
つられて、山南も声を立てて笑い出した。
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