山南敬助

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「嬉しい・・・」 「え?」 小さな声で言われた言葉を聞き取れず、間抜けな返しになった。 山南は、目を押さえている明里と向かいあった。 明里の袖を握る手がますます強くなる。 「山南はんに身請けしてもらえるやなんて、夢みたいどす!」 ぱっと顔を上げた明里の顔は満面の笑みで、山南は呆気にとられていた。 「え・・?では、何で泣いて・・・」 「そないなの、幸せだからに決まっとるでしょう!」 「そう、なのかい?」 ぎゅうっとしがみついて来た明里を、恐る恐る抱きしめる。 「じゃあ、私は、あなたを身請けして良いのかい?」 「もちろんどす。何を言うてるんどすか」 「そうか・・・」 じゃあ、私は、あなたと共に居られるのだね。 何かに強く心を揺さぶられて、その華奢な体が壊れないように力を込める。 (こんなに小さいあなたに、私は支えてもらっている。 私は、あなたにとっての何かになれるだろうか) 「ねぇ、山南はん」 「ん?」 細い肩にうずめていた顔を上げる。 そこには悪戯をする子供のような笑みを湛えた、山南にとって最も美しい(ひと)がいた。 「さっきの話の続き、聞かせてください」 「え?さっきの話とは?」 明里は唇をついと尖らせた。 なめらかな唇に塗られた紅が、白い肌にはえている。 「ほら、藤堂はんが江戸に行っとるって話。途中で止まっとったでしょう?」 そういえば、と山南は思い出した。 身請け話を持ち出す前、平助のことを話していたな、と。 明里は、山南が話す、新選組の面白い話を聞くのが好きだった。 特に平助についてはよく聞いていた。 一度会ったことがあるためか、自分より年下なのが気にかかっているのか。 山南はそんな風に捉えていた。
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