ロボット生活(淡々と過ごす日々)

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ロボット生活(淡々と過ごす日々)

朝6時、内蔵タイマーで目が覚める。ピピッ、ピピッ!あれっ、なんかいつもと違う。僕が僕じゃないみたい…。 前の日あんなに願ったせい(おかげ)か、朝目覚めると僕はロボットになっていた。 コードネーム「KOKORONE2019」。 いつもは、部屋が明るくなると自然に目が覚める。それは5時半だったり、6時を過ぎたり、日によってまちまちだ。最終的に二度寝して6時半に起きるのだが、どうやら平均して起きる6時にタイマーが設定されていたらしい。 そして起きた瞬間から目がぱっちり。眠い目をこすったり、もう少し寝ていたいの感情が僕には無くなっていた。 もうひとつ気づいたことがある。それは、お腹が空いてないってこと。温かい白いご飯を食べたい。お味噌汁を飲みたいなんて気持ちも芽生えていない。 目の下の方に見える「🔋100%」の文字。どうやら、充電式のようだ。 洗面所に行って、自分の姿を鏡に写す。姿形は昨日までの僕と何一つ変わりはない。 いつもは顔洗い、髭をそって、寝癖をなおすという習慣なのに、髭も伸びてなければ寝癖もついていない。無駄な時間が省けて効率的だ。 体内バッテリーの充電は完了していて、朝ごはんを食べなくていいとすれば、僕は何をすればいいのか。 待てよ。思考回路が働かない。誰かの指示がなければ動かない体になってしまったのだろうか。 朝7時、家を出て会社に向かう電車の中。他の人との距離が近い満員電車に揺られる。 いつもだったら、毎日違う人を見ながら、このおじさんの腹が背中にあたって気持ち悪いとか、この女性の香水臭くてたまんないとか、つり革あるのに掴まらずに体重預けてくんなしとか、朝からイライラが止まらない。 ところが今日の僕は、何も感じない。ただ立っているだけ。埋め込まれたプログラムに従って動いているだけのロボットだった。 朝8時、会社に着いた。いつもの席、いつも見る会社の人。そこは情報としてインプットされてるらしく、職場の人の名前も仕事の内容も把握済みでスムーズに事が進んだ。と言うより、いつもの僕以上に生産性が高く、仕事をさばいていた。 人間だった僕は私語の多い職場にイライラしていた。お菓子の話、昼ごはん何食べるの話。夜どこに飲みに行くの話。彼女彼氏の話。野球の話。プロレスの話… ロボットになった僕は、それら全てを雑音化して、やるべき目の前の仕事に集中していた。 お昼休み。みんな外にご飯を食べに出かける中、僕はパソコンのUSBの口にヘッドフォンのコードを繋げた。 はたから見たら何も食べずに音楽を聞いているだけの人だったが、実はそのヘッドホン型の充電器で耳から充電していたのだ。 流れてくる音楽は、あいみょんの「空の青さを知る人よ」。僕が今ハマってるはずの曲。この歌を聞くと気持ちが晴れやかになったのに。 今日の僕は好きな音楽も雑音と化していた。 それから、午後の仕事を何事もなく終わらせ、まっすぐ家路に着いた。 自宅の最寄り駅に着くと、僕には選択肢が幾つかある。 ①外食で夕飯をすます ②家でご飯を作るための食材を購入 ③大好きなカラオケに行ってストレス発散 どの選択肢も今日の僕には魅力的ではなかった。お腹も空かないし、ストレスも溜まってない。 真っ直ぐ家に帰ることにした。いや帰るという指示のもと、行動しただけなのかもしれない。 家に帰って服を着替えて寝る。 と言ってもチェアに座って フル充電を待つだけだ。 そして、ロボットとしての僕の淡々とした一日が終わった。
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