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人間生活(おばあちゃんとの思い出)
2階の窓から朝日が差し込み、鳥のさえずりとともに目が覚めた。カーテンを開けると、目の前に田んぼが広がっていた。
どうやら、そこは子供の頃よく遊びに行ったおばあちゃんの家のようだった。
と言っても、おばあちゃんの家はそう遠くはない。子供の足で歩いて5分。小学生の頃、学校が終わると一直線に向かうのは、おばあちゃんの家だった。
僕の両親は共働きで、いつも帰りが遅かった。だから、夕飯はおばあちゃんの家で食べるのが日課になっていた。
おばあちゃんがいてくれたおかげで、物心着いた頃から寂しいと思ったことは1度も無い。
そんなおばあちゃんが、ある日、百日咳にかかった。最初はすぐ治ると思っていたのに、思いのほか長引く。どんどん衰弱していくおばあちゃん。元気の塊みたいな人だったのに寝込んで食べ物が喉を通らなくなったようだ。
病院の看護にも付き添った。おばあちゃんにしてもらった事はいっぱいあるのに、僕は何の恩返しもできていない…
不安と焦りが頭の中を駆け巡った。
おばあちゃんに少しでも恩返しをしたいと思った僕は、社会人になってまだ数年しか務めていない会社を辞める事にした。
おばあちゃんと、おばあちゃんが1人で手掛けてきた畑や田んぼ(八反)を守りたかった。
それから僕は、おばあちゃんの変わりに寝る間を惜しんで毎日必死に働いた。
そんなある日、ひどく疲れていたせいか、お見舞いに行ったおばあちゃんの病室で、うたた寝をしてしまった。
暖かい日差し。どこまでも広がる野山。草原に寝転ぶ僕。まるで陽だまりの中にいるように心地良かった。
どこからか耳に優しく響く
「どくっ、どくっ」という音。
その音の方向に歩みを進めると、僕は目を覚ました。すると、動けないはずのおばあちゃんの腕に抱きしめられ、寄り添うように寝ていたのだ。
あばあちゃんの「心音(しんおん)」はとても暖たかく、僕にとっての「心音(こころね)」でもあった。
結局、地元の小さな病院ではおばあちゃんの病気は回復せず、大きな病院に転院することになった。そして、検査の結果、おばあちゃんの病気が実は肺がんだったことを知った。
目の前が真っ暗になった。大きな病院に転院してからも、おばあちゃんの病状は悪化していく一方だった。
早期の発見で手術をすれば治ると聞いていた病気も、心配かけないようにとおばあちゃんが僕についた初めての嘘。実は末期のガンだったそうだ。
そして、おばあちゃんが亡くなった日。
「怖い…死にたくない。生きたい…」
おばあちゃんから聞いた初めての弱音。
おばあちゃんが発した最後の言葉だった。
今でも時々思い返すことがある。
おばあちゃんが何を見て何を考え行動していたのか。あれだけ長くおばあちゃんと接していたのに、肝心な事は何一つ分かっていなかった。おばあちゃんが抱えていた不安や心配。
僕はおばあちゃんに何かできたのだろうか。
天国のおばあちゃん、僕がそっちの世界に行った時にホントの気持ち全部聞かせてよ。
おばあちゃん、大好きだよ。
今度は僕の心音を聞きながら
安らかに眠って欲しい
(おしまい)
※このおばあちゃんの思い出は、
「日和 音々(@HiyoriNene)」
さんの体験談を聞いて
作ったお話です
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