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第1章 追っても逃げない獲物
ひっそりと立つ古城を見上げ、ライアンは口元に笑みを浮かべる。金色の長い三つ編みが背中で揺れた。
「やっと見つけたぜ」
純血種の吸血鬼が住むと噂の城を巡ること、数年――ようやく本物らしき古城を見つけた。眇めた青紫の瞳が細められる。
人間唯一の天敵――吸血鬼。
体内の血をすべて流しきれば、奴らは滅びる。それが吸血鬼を殺害する唯一の方法で、昔から伝わる十字架や聖水、ニンニクなんて効きやしない。
ただの迷信に過ぎなかった。吸血鬼の伝説において正しいのは、奴らの食料が血液だということ、日光を嫌うことぐらいだ。
純血種でないとはいえ、幾人もの吸血鬼を滅ぼしてきたライアン・マクスウエルの名は、有名になっている。吸血鬼の間でも、人間の間でも……。
ハンターに巻き込まれるのを恐れる人間から忌み嫌われ、吸血鬼には狙われる。最悪の環境にありながら、ライアンはハンターを止めようとしなかった。
最後の純血種を殺したら、すべてが終わる。
ライアンが望むのは、終焉だけなのだ。
入り込んだ古城の中、飾られた豪華な調度品を眺めながら、ライアンは堂々とした態度で探索を始めた。時刻はまだ昼前後、吸血鬼が起きている筈もない。薄暗いが日光の差し込む時間帯なら、襲われる心配もいらなかった。
「しっかし、吸血鬼の城ってのは……なんだってこんなに豪華絢爛なんだろうね」
手近な銀の燭台を拝借し、蝋燭に火を灯した。
どこの城へ行っても、元貴族の肩書きのせいなのか。無駄に豪華な装飾や調度品が多い。
カーテンを開ければ、柔らかいクリーム色の壁と薄緑色の絨毯が広がる。普段から日光を浴びない所為だろうか、日焼けの跡もなく綺麗な状態だった。
壁より少し濃色のソファや椅子、一目で価値のわかる絵画や骨董品が並んでいる。不自然なほど室内はキレイだった。
放置された城なら、家具に白い布をかける。埃よけと日焼け防止の意味がある布は、どこにもない。これが吸血鬼の住む城の証明でもあった。決して埃に汚されることのない、まるで時間の止まったような空間を、奴らは作り出すのだ。
「……間違いなさそうだな」
机や窓の様子を確認し、明るい室内で主のようにソファに腰を下ろした。ここは客室として設えられた部屋らしい。城の造りは先日の古城に似ていた。
さて、奴はどこに眠っている?
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