第1章 追っても逃げない獲物

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※吸血行為&性行為があります。 *************************************** 「お前、は……?」  側にいるのか?  俺のものになってくれる?  言葉より豊かに感情を語る紅い眼差しに笑顔を向け、乱れた髪を背に放った。しっとりと濡れた肌から、ほんのりと甘い香りがする。誘われてキスを贈り、さきほど自分が付けた痕を指先で辿った。 「とっくに、オレはお前のもんだよ」  安心したように頷くシリルの(まなじり)にキスし、そのまま体の位置を移動して日焼けしない肌に赤い痕を残していく。両足をそっと広げ、恥ずかしがって閉じようとした脚の内股に吸い付いた。  所有を主張するキスに赤く色づいた場所を増やしながら、ライアンは再び切なげに勃ち上がるシリルを唇で煽る。 「……んん……ぁ、……ラ、ィア…………ゃだっ……」  誰にも触れさせていない蕾を、そっと舌で解す。傷つけないように、怯えさせないように、唾液を送り込みながら指を1本入れた。  一瞬震えたシリルの身体は、しかしライアンを拒むことなく受け入れる。その反応に気を良くしたライアンの指は、シリルの細い身体を気遣いながらも2本、3本と増えていった。 「や……っ、ぁあ……ンっ、もっ……ぅ……」  強請(ねだ)っているのか、シリルは身を捩ってシーツを乱す。奥に忍ばせていた指を引き抜き、ぺろっと自分の唇を舐めた。  必死でシーツを掴む指を解かせて、恭しく持ち上げて舌を這わせる。ぞくりと背筋を走る快感に翻弄されてたシリルの肌は、目にも鮮やかな朱を纏った。 「シリル」  名を呼べば、艶っぽい眼差しが向けられる。  そっとシリルの人差し指を自分の首に押し当てた。 「……っ……」  言わなくても伝わっている。血を飲めと言うのだろう。ずっと血を飲んでいなかった体は、ほんの僅かなライアンの血に歓喜していた。たくさんの量は要らない、それが不死の民の血が持つ能力のひとつでもあるから……グラスに僅か注いだ量だけで、吸血鬼を数十年生かすほどの、濃厚で芳醇な香りと甘い味。  迷うシリルに、ライアンは耳元で囁いた。 「言っただろ? オレはお前のもんだって―――」  先ほど吸収した甘い味を忘れられなくて、シリルはそっと指が触れる頚動脈の位置に唇を押し当てた。歯を立てて皮膚を食い破るなどしない。混血なら別だが、純血種のシリルはそんな野蛮な吸血行為を必要としなかった。  吸い上げるように唇を窄めれば、甘い血が広がる。人間の血は生命力が薄い……まるで安物のワインのように悪酔いすることもあったが、ライアンの血はまったく違った。ごくりと喉を鳴らし、ゆっくりとライアンの命を堪能する。 「ふっ……ぁ……」  量にすれば2口程度なのに、染み渡るライアンの生命力が身体をざわめかせる。ぞくぞくと背筋を走る快感と同じ種類の、癖になる快楽だった。  ぐったりと身体の力を抜いてしまったシリルの腰を引き寄せ、そっと押し当てる。熱い欲望の触れた蕾は、怯えと期待にわななく。 「……シリルっ」  惚れた――同性の体に興味があったわけじゃないが、シリルなら構わないと思う。どうやら最初に会った時から、惚れてたんじゃないかと……。じゃなけりゃ、昼間で(なご)んでいたってオレがナイフを手放す筈ない。  他人を信じた経験なんて、なかった。 「オレはおまえを選んだんだ、シリル。おまえは?」  オレでいいのか?  省略した言葉をくみ取ったシリルは小さく頷く。  まだ躊躇いがちの所作が、長い間に降り積もった埃のように、彼の心に重く()し掛かっているのだろう。徐々に取り除いてやればいい、時間は余っているんだから……ライアンは抱き寄せたシリルの(あご)に指をかけ、そっと(つい)ばむように接吻けた。
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