皆様、よいしゅうまつを

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皆様、よいしゅうまつを

「行くな!」  強く、強く、互いの隙間を埋めて、溶けてひとつになってしまえとばかりに、強く。抱きしめられた私は、ただされるがままになっていた。  哲くんは私の幼馴染。  優しくてぶっきらぼうで気持ちを口に出すのが下手で、大好きだった。ずっと。 「哲くん」  名を呼べば、私の肩に埋めたままの顔が少し震えた。ずっと寒かったから、その温かさはとても心地がよいのだけど。 「哲くん、私もう行かなくちゃ」  でも、ずっとこうしてはいられない。  抱きしめてくれる腕の強さも、その温かさも全部全部大好きだけど。  私はその背中に回したい手をこらえて、ぎゅっと固く握りしめる。  これは精一杯のわがままだ。 「ありがとう、哲くん」 「みゆき」 「大好き。ずっと、ずっと、大好きだよ」  これは呪いだ。  ずっと、ずっと、彼の心に残るための、おまじない。 「ほら、夜が明けるよ」  それでも腕は緩まない。  私に顔も見せずに、ぐすぐすと鼻をすすりながら、彼はずっと泣いている。  知っていた。  ずっと。  彼が泣いていたことも、私を好きでいてくれたことも。  だから。 「元気でね」 「みゆき!」 「ずっと、好きだよ。本当だよ。嘘はつかないから」 「みゆき!」 「ねぇ、私のこと、好きって言って?」  言われて、彼はようやく私の肩から離れた。まっすぐに向き合って、そうして、私を見る。 「好きだ。ずっと、俺だって、ずっとずっと、好きだった」  ぐしゃぐしゃに泣いた顔は昔と何も変わらない。  私の一番大好きなひと。  私が一番、幸せになってほしい、ひと。 「ありがとう」  嘘でもいいから、そう言ってほしいと思ったこともあった。  でも今は違う。  私と同じ気持ちでいてくれたのだと、気付けたから。 「しあわせになって」  とびっきりの笑顔で、そう返せたと思う。  返せたのだろうか?  私の輪郭がおぼろげになっていく。私の心残りはもうなくなってしまった。 「みゆき! 行くな!!」  もう一度、哲くんがそう叫ぶ。  ああ、なんて幸せ。
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