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「うーん、おらんなぁ」
「本当だね」
幽霊にハイキック、というとんでもない荒業を決めてからというものの、全くと言っていいほど学ラン幽霊が現れる気配はなく、私達は現在学校の階段制覇の旅、二周目に入ったところだ。
「そういやさっき思ったんやけど、何であんな体柔らかいんや、なんかやっとるんか?」
「えーっと、ストレッチが趣味で」
「ほーん、それだけでそない柔らかくなるもんなんやなぁ」
「小さい頃から身体が柔らかいことだけがとりえだから・・・・・・」
「ふーん、でも何でストレッチなんかすんのや?」
「なんか気持ちいいし」
「気持ちええのんか?」
「うん」
「ストレッチってそんなに気持ちええのんか?」
「2回も聞く必要ないでしょ、所でヘビちゃんは一体何なの、私のことにも詳しいし、喋るし変な力持ってるしで全然わけわかんない、教えて」
そうだ、ここにきて冷静になってみると、私はヘビと会話するというとんでもないことをしている。それこそ他人から見たら相当痛いやつに見られかねない状況だ。
「それはあれや、メガネ君の処理が終わったらゆっくり話したる、どうせこうなってもうたんやから話すしかないしな」
「コウナッテモータ?」
わけのわからないことを言うヘビに疑問を抱きながらも、私は一段、また一段と階段を登っていく。
しかし、よく考えればこの状況、普通の女子高生なら幽霊やヘビに出会ってしまったら「ひゃー」とか「わ~」とか言って驚いてにげたりすればいいのに冷静にふるまって、自分でもつまらない人間だと思う、だから友達もできないのかも知れない。
おまけに喋るヘビや身体の透けた幽霊なんて、非現実的なものがいる状況にもいつの間にか慣れて、おまけに幽霊退治とかいうものまでしてる。
今ならまだ夢でしたーって感じで目が覚めても不思議じゃないくらいぶっ飛んでいる。
「おるで」
なんてネガティブな事を考えていると、ヘビの口からそんな言葉が聞こえてきた。
しかも、今の私は階段を登っている途中だ、もしこの状況でいきなりあの学ラン幽霊が出てきて、突き飛ばされたりでもしたら、この間のようになってしまうかもしれない。
そう思うと血の気が引いて、私は辺りを見渡し学ラン姿の幽霊がいないか確認した、しかし、周りには誰もいない。
けれど、耳をよく済ましてみると何やら荒い息遣いのようなものが聞こえてくる。
私はもう一度辺りを見回す、しかしやっぱり誰もいない、ヘビも中々感じ取ることが出来ないのか舌をちょろちょろと出してキョロキョロとしていた
「何処にいるのヘビちゃん?」
「わからん、でも確かにここに居るはずや」
そして相変わらず聞こえるあらい息遣い、初めて合った時も聞いた気持ちの悪い息遣い、一体何処から聞こえるのだろう。
「し、しししししししし」
突然聞こえてくる声、間違いないあいつの声だ、にしても気持ちの悪い笑い声だ。
「ちょっとヘビちゃん、気味が悪いって」
「わーってる」
私達は神経を研ぎ澄ますも中々声の主を発見することが出来ない、しかし、辺りからは今でも「ししし」という声が聞こえてきてなんとも気味が悪い。
しかし、よく耳を済ましてみるとかなり近く、それも下の方から聞こえることに気づいた私はすぐに携帯で、足元の階段を照らした。
するとそこには学ラン姿の幽霊であろう顔ニヤニヤとした表情でが浮き出ており、私はそれを見た瞬間驚いてその顔を踏みつけた。
「いやぁぁぁぁぁ」
「ふべーーーーー」
踏みつけたと同時に奇声を上げる顔、そしてすぐにその顔は階段から消え去った
「なんやなんや」
「今、階段に顔があった」
「階段と同化しとるんか」
「ど、同化とか出来るの?」
「とりあえず、はよ階段から離れなあかん」
「う、うん」
ヘビに言われたとおりすぐに私が階段から離れると先ほど立っていた階段から生えてくるように学ラン姿の幽霊が姿を現した
「やっと姿を現しおったな、もうええかげん堪忍せ-やメガネ君」
そんなヘビの言葉に学ラン姿の幽霊は反応すること無く顔をおさえながら、さきほどからずっと「し」という言葉を連呼している
「なんやあいつ、ししし、って何言うとんのや」
「さぁ?」
「ししし、しろ」
「「しろ?」」
私とヘビは声を揃えてそう言い、顔を見合わせた。
「しろ、シロ、白、純白のパンツっ」
私も何のことを言っているのか分からず首をかしげたが、先ほど学ラン姿の幽霊は私のすぐ足元にいた事を思い出し私はスカートを手で抑えて幽霊を睨みつけた。
「あへへ、パンツが白、まさに理想の女性だ、美人な上に純白パンツ、完璧すぎるっ」
「あのメガネ・・・・・・」
「なんや自分、今日、白パンなんか?」
ヘビにまでそんな事を言われる私は余計に苛立った。
「ど、どうでもいいでしょ、パンツの色なんて」
「あへへへ、しろしろしーろ、純白パンツ、女性はやっぱり純白パンツ」
気持ちの悪い小躍りをしながら喜ぶ学ラン姿の幽霊・・・・・・決めた、こいつは絶対にぶっ飛ばす。
「せやなぁ、白もええけどつまらんなぁ」
何故か共感するヘビ、人間でもないのにそんなことがわかるのだろうか?
「パンツとかどうでもいいから、あいつどうにかしようよ」
「はっ、うちとしたことが、ちゃっちゃと終わらすで」
私は階段を駆け上がり、学ラン姿の顔面に蹴りを入れようとした。しかし、意外にも幽霊は私達の攻撃を見きり、頭を抱えながらしゃがみこんだ。
「あへ、残念ざんねーん」
「なんでっ」
外れた攻撃に、体制を立て直そうとしていると、何かとてつもなくひどい音が聞こえてきた。
それはまるでガラスがガシャガシャに砕け割れたかのような音であり、何が起こったのか分からず、私は音がする方に意識を向けた。
ライトで音がする方を照らすと、そこには割れたガラスがあり、何かの影響で割れた様子がうかがえた。
そして、窓ガラスの破片が散らばる音とともに、かすかに誰かの声が聞こえてきたような気がしたが、聞き取ることは出来なかった。
そんな状態の私はふと我に返り、学ラン姿の幽霊にもう一度蹴りを入れなければと思い身構えた。
だが、あたりには誰もおらず、割れたガラスの外からはカラスの鳴き声が不気味にこだましているだけだった。
おかしい、あいつはいつの間に消えたのだろう、確かさっきまで私の目に見えていたはずなのに、またどこかに逃げたのだろうか?
「あへへ、どーしたのかな?」
聞き覚えのある声、ねっとりと耳に絡みつくような気持ち悪い男の声、間違いない、学ラン姿の幽霊がすぐ近くにいる。
だけど何処にいる、また階段と同化しているのだろうか?
私はすぐ足元をみたが、そこには目や口はなく普通の階段だった。そして、そんな確認の際に私は気づいた。
そう、さっきから何か物足りないと思っていたら、わたしの足元にヘビがいない。
体中の感覚が身体にヘビが絡みついていることを知らせてくれない、知らせてくれるのは幽霊が見えない恐怖と、異様なまでの悪寒。
「へ、ヘビちゃんがいない・・・・・・」
私は危険を察知してすぐさま階段から離れようとした、しかし、そう思った瞬間私の耳元で囁く声が聞こえた。
「あへへ、階段を急いでおりちゃ危ないんだよ」
「ひっ」
そんな幽霊の言葉に驚いた私は足がもつれてしまい人生で二度目となる階段落ちを経験することになったわけだが、運の良い事にそれほど高い場所ではなかったためか、地面に滑り込む形で受け身をすることが出来た。
「あへへへ、危ないあぶない」
不気味に笑う幽霊を背に私は考えた。
あのヘビがいない今、私は丸腰同然、おまけに相手の姿を見ることが出来ない、ならば、今すべきことはなるべく階段に近寄らないようにしてこの場所から逃げる。
私はすぐさま立ち上がりその場から走って逃げた。
そうして廊下の中腹辺りまで走った所で私は後ろ確認した、追っては来ていないようだ、だが、念のためあたりを見回し・・・・・・って私にはあいつが見えなかった。
すっかり、異質な世界に順応している私は空き教室に入り、息を整えることにした。
姿が見えない、幽霊というものが見えないのは当たり前のことだが、そんな事実が私の中の恐怖心を更に高めていった。
しかし、これからどうしよう、おそらくあいつは階段がある場所なら何処にでも現れることが出来るはずだ。
おまけに階段と同化することも出来るときた。私が今いるのは3階、あと2回は階段を使わなければ私は学校から逃げることが出来ない。
いや、そもそも私はどうしてあいつから必死に逃げる必要がある?
そうだ、少し冷静になって考えなければ、そこまでしてあいつから逃げなければならない必要性はない、おそらく階段に近づかなければ済む話だ。
それから、まずは、あのヘビが私のもとに帰ってきてくれるかどうかだ。
多分だけど、さっき窓ガラスが割れたのは私の足からヘビが抜けて飛んでいったのが原因だ、なんだか悪いことをした気分だけど、そんな所に巻き付くのが悪いとしか言いようがないし、ちゃんと巻き付いておかない方も悪い。
早く帰ってきてくれることを願いつつ、私は教室内でしばし休憩を取ることにした。携帯を見ると、画面には18時50分と表示されていた。
もうそんな時間が立っていたのか、そう思い教室の窓を見ると、外はもう夜を迎えていた。
まずい、日が落ちたら行動範囲が狭まってより多くの危険が私の身に振りかかるかもしれない、そうもい、私は携帯を閉じてすぐに学校から脱出するため先ほど幽霊と出会ったのとは反対側の階段に向かった。
目の前には、薄暗く存在する階段の姿、いつもの私ならすぐにでも階段を降りていくけど、今は違う。
目に見えぬ存在と恐怖がそこにはある、それだけ階段というものが生死を左右する存在になってしまっている。
私は2階へと繋がる階段を前で立ちすくんでいた、理由は勿論、あの幽霊がいつ出てくるかわからないからだ、そうして階段の前で立っていると何やら下の階から足音が聞こえてきた。
まさか学ラン姿の幽霊が私を嗅ぎつけてきたのだろうか、その足音は段々と近づいてきて、ついに暗闇に人らしき影を現した、私は携帯のライトでその影をてらした。
「わわっ」という素っ頓狂な声と共に暗闇の中から現れたのは音無さんだった。
「お、音無さん、どうしてここに?」
「えへへ、零さんが幽霊さんを退治しちゃわないように見に来ちゃいました」
「更科先生は?」
「先生は寝てますよ」
「は?」
くそ、ヘビちゃんとの約束で音無さんを近づけないようにしたかったのに、何があったかは分からないけど、どうして更科先生は寝てしまっているんだろう?
「そういえば零さん、幽霊は見つかりましたか?」
まずい、今音無さんに来られてしまったら学ラン姿の幽霊に何をされるかわかったものじゃない、今すぐにでも彼女をこの場所から逃がさないと。
「零さん、見つからなかったならもういいでしょ、もうこんな時間なんですから早く帰りましょうよ」
そう言って音無は私の手を引いて私を階段の方へと引き寄せてきて、私は階段に足をついた、その瞬間全身に悪寒がはしり、直感でこの場所は危険だと感じた。
「音無さん、私はいいから早く帰ってっ」
「え、零さんは帰らないんですか?」
「いいから早く帰れっ、死にたいのっ?」
私は柄にもなく大声を出して音無さんを怒鳴りつけた、すると彼女は私の手を離した。
「ひゃっ、わ、わかりましたー」
そう言って音無は私をちらちらと見ながら階段を降りていった、そんなとき音無は急に立ち止まった。
「あの、零さん?」
「何?」
「えへへ、また明日」
笑顔で手を降ってくる音無さんに少しだけ心が和み、私も手を振り返した。
「あぁ、また明日・・・・・・」
そんなわずかな心の緩いによるものなのか、はたまたそうなるべくしてそうなってしまった運命というやつなのか、私の目には最悪の光景が映し出されていた。
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