階段の幽霊編

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 幽霊大好きフワフワ少女の音無さん、奇妙な彼女との出会いから一週間。  現場検証とやらの日から、彼女が私の元を訪れることはなかった。私としてはこの上ない幸せであったはずなのに、どうにも彼女の姿と彼女が話した怪談話が頭の中で何度も繰り返し再生されていた。 『学ラン姿の丸メガネを掛けた幽霊』 『階段にのみに現れ、人を突き落とす』  そんな不思議な話を私は階段をひたすら登り降りしながら考えていた。階段をのぼることに意味はない、さながら出産を待ちわびる父親か何かの様に落ち着きなく階段を登り降りする事で自分の平静を保とうとしていた。  そして、そんな私は最近めっきり姿を表さない彼女の身に何か起こってしまったかも知れない、そんな心配をするほど音無さんの存在が私の中で大きくなっていた。  しかし、そんなことを思うのも無理もない、なぜなら彼女のような人間はこの世の中そういるものじゃないからだ。  口を開けば幽霊ゆうれい、と、それこそ取り憑かれたように話す彼女は普通の人間からしたら相当いかれてるだろう。  だけど、同時にそういった彼女の人間性はひとつの魅力になりうることもある。そして、私はその不思議な魅力とやらにやられてしまっているようだ。  ただ、気になったからといって私から彼女のもとに訪れるというのはなんだか気が進まない。  なぜなら、音無さん自身が私の事や幽霊のことに関してもうすでに飽きてしまって「いまさらなんですか?」なんて言われそうだし、それにもう二度と来るなとか言っちゃったし。  そんな事を考えた挙句、どうしても彼女が気になる私は音無さんが来なくなってからというものの、暇さえあれば鉄柵扉の方を見て来訪者を確認していた。  サンタを待つ子どもが窓の外や枕元を気にするように、鉄柵扉の方を何度も確認していると、いつの間にか鉄柵扉の前に人が立っていた。  その人は、何やらあちこち包帯でぐるぐる巻になった音無さんであり、彼女は扉の前でぼーっと突っ立っていた。  音無さんだとわかっていても、「ひっ」と思わず上げてしまった声に気づいたのか、音無さんはゆっくりと顔を上げた。その顔は少しだけ浮かない顔をしていた。しかし、私の顔を見るとすぐに笑顔になり手をふってきた。 「あ、零さん、お久しぶりですー」 「お、音無さんその包帯どうしたの?」 「いやぁ、実は階段から転げ落ちちゃって、えへへ」 「えヘヘじゃない、まさか本当に幽霊に突き落とされたとかじゃないよね?」 「あれ、零さんってば幽霊さんなんていないって言ってたじゃないですか?」 「それは・・・・・・」  私はすぐに鉄柵扉を乗り越えて音無さんのもとに向かった、彼女は右腕と頭に包帯を巻いており、あちこちには痣があった。  階段から落ちたというのは本当のようだ。立ち話をしているとなんだか彼女に悪い気がしてきたので、私はとりあえず近くの空き教室に入って彼女の話を聞くことにした。 「で、記憶喪失ってわけでもなさそうだし階段から落ちる前の事は覚えてるんでしょ?」 「はい、実は零さんの所から逃げちゃった後、しばらく教室でゆっくりしてから家に帰ろうとしたんですが、その時に階段から落ちちゃったみたいで」 「あの後そんな大変な事になっていたのか。って言うより何であの時私から逃げたの?」 「それは、その、言えません」 「何それ、で、落ちた理由は何?」 「それは、私って普段から何処か抜けてる所があるので、ボーっとしてたら階段から落ちちゃいました。でも見回りの先生にたまたま見つけてもらえたので良かったです」  そんなことを言いながら音無さんは笑った。傍から見れば笑える怪我じゃないのにどうしてこんなに元気でいられるのだろう。 「身体は大丈夫なの?」 「はい、腕の骨にヒビが入っちゃったみたいですけど、若いからすぐ治るよってお医者さんに言われました」 「医者特有の若いから大丈夫という、若者にとっては余計心配になる発言か」 「え、なんか言いましたか?」 「いや、なんでもない」  しかし、幽霊の存在を認めるわけではないが、このタイミングでこんな怪我を彼女がするのは、何かしら関係があるように思えて仕方がない。  むしろ、こういう事にいち早く気づく事こそが幽霊を追い求める人間のはずなのに、どうして彼女はそのことに関して一切の関連性を求めていないのだろうか。 「それで今日は何の用なの?」 「それはもう、幽霊さんを見つけに来たんですよ」 「その熱心な態度だけは尊敬に値するかも知れないけど、実際問題その体で幽霊探しは無理でしょ」  音無さんはじっくりと自分の体を隅々まで眺めた後、納得した様子を見せた。彼女の事を詳しく知っているわけではないが、今日の音無さんはなんとなく素直に思えた。 「確かにそうでしたね」 「あのさ、本当に幽霊を探すつもりで来たの?」 「はい、そのつもりでしたけど零さんにそう言われて無理かなって今思いました」 「・・・・・・」  今までは、音無さんと関わりたくないがためにあまり相手のことを聞かないと思っていたが、ここまで夢中になって、自分がボロボロになってまでも幽霊を追い求める理由を私は知りたくなってきた。
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