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「あの、少しいい?」
「はい?」
「音無さんがそこまで幽霊と友達になりたい理由、教えて?」
「理由ですか?」
「なんで幽霊を好きになって、友達になりたいのかを聞きたい」
「・・・・・・」
「べ、別に喋るのが嫌なら別にいいんだけど」
私がそう言うと音無さんはしばらく考えた後、笑顔を見せてきた。
「そうですね、やっぱり一番の理由はママですかね」
「ママ?」
「はい、私の家は幼いころにパパを亡くしてて、幼い頃からママと二人暮らしなんです、あ、全然気を使わないでくださいね」
「う、うん」
「それで、私が小さい頃からママはいつも死んだパパの仏壇の前で楽しそうにお話をしてたんです。
私はその話興味を持って「どうしていつも一人で喋ってるの?」って聞いたんですよ、そしたらママは「幽霊になったパパと話しているのよ」って笑顔で言うんです。
その時、私は初めて幽霊というものがいることを知って、それから幽霊というものに興味を持ったんです。えへへ、少し説明が簡単すぎましたかね?」
音無さんは笑顔でそんなことを言った。こんな話、到底誰かに話せる内容の話ではない。
「いや大丈夫、わかったから・・・・・・」
「ママは今でも毎日欠かさず仏壇で話していますよ、たまに泣いてる時もあるんですけどね、えへへ」
音無さんさえ良ければ思っきり笑ってこの重苦しい雰囲気をぶち壊したいところだけど、目の前の音無さんは微笑しながら乾いた笑いを見せていた。
それはまるで私は音無マリアという女子高生のドキュメンタリー映像を見ている様な気分だった。
いくら音無さんが何の気なしに話していたとしてもこの話は笑うことが出来そうにない、今頃になってやっぱり聞くべきじゃなかったと後悔した私だったが、そんな音無さんという不思議な人物にさらに興味が湧いてきた。
「そっか」
「はい、っていうか思ったんですけど、私自分の事ばかり話して、零さんのことはなんにも知らないです、教えてくださいよ」
「いや、私のことはいいから」
「ダメです、なんか不公平ですよ」
「不公平じゃないから」
「どうしてですか?」
「だって、音無さんは幽霊と友達になりたいんでしょ」
「はい」
「だったら私のことを知る必要はないわけ、幽霊のことをもっと知らないと」
「う、うーん、じゃあせめてお願いを聞いてくれませんか?」
「なんでそうなるの」
「いいじゃないですか、私の事を聞いたお返しです」
人とかかわるという事は、やはりこうした等価交換で成り立つというのが分かる、やはり人とかかわるのは面倒でしかない。
「・・・・・・わかった、聞くだけ聞く」
「やったー、じゃあ、一緒に幽霊さんを探しませんか?」
音無さんは満面の笑顔でそう言った、まるで夏休みに友達からカブトムシ捕りに行こうぜって言われたくらい自然に私にそう告げた。
そんな気軽な誘いに、思わず「いいよ」っていいそうになったが、ぎりぎりの所でその言葉を飲み込んだ。
「無理」
「だって零さんっていつも一人でいるじゃないですか、だから暇だろうなと思って、どうですか?」
「暇なわけない私はいつも忙しい」
「そんなことないですよ」
「え?」
「零さん有名ですよ、色んな所で零さんが一人でどこかに行くのを見て「ゆうれいさんいつも一人で何処にいってるのかな?」とか言われてるの有名ですよ」
「え、嘘でしょ」
「嘘じゃないです、本当です、私の耳がその言葉をしっかりと捉えました」
「本当に?」
「えぇ」
まさか、そんなことを言われているだなんて、私はすっかり学校の風景の中に溶け込んだと思っていたのに、そんな風に思われていただなんて。
「音無さんにそんな事を言われたくはない、大体、音無さんだっていつも学校中の人から音無のくせに大人しくないとか、音無のくせにうるせーんだよって言って馬鹿にされてるから」
「そ、そうなんですかっ」
私とは打って変わって嬉しそうな顔をする音無、褒めているつもりはないのだがどうしてそんな表情を出来るのだろう。
「なんで喜ぶの?」
「いや、私の噂されてるなんてまるで有名人みたいで嬉しいなと思って」
どうして音無さんはそんな捉え方をできるのだろう、私なんてただただマイナスイメージにしか思えないっていうのに。
ただ、噂というやつは自分自身が人からどう思われているのを知れるから面白いし、少しでも自分が他人の会話に出てくればなんだか嬉しいかもしれない。
ただ色々な噂を耳にしているつもりの私だが、自分自身の噂をしている話を聞いたことは一度もない、音無さんは一体どういう経路でその情報を得ているのだろうか、私と同じで友達はいないはずなのに。
「と、とりあえず、音無さんを手伝う理由が私にはない」
「そんなこと言わずに、ねぇ、お願いしますよ零さん」
擦り寄る音無さんを私は静かに振り払い教室から出ることにした、すると、ちょうど学校の最終下校のチャイムが鳴り響いた。
「そうだ零さん一緒に帰りましょうっ」
「いや、やめとく、私は一人で帰るから」
そうして、下校することになったのだが、結局音無さんから逃げることも出来ず、ピッタリと付きまとわれた私は、しぶしぶ一緒に帰ることにした。
その途中、音無さんはトイレに行きたいと言い二階にあったトイレに駆け込んでいった。
この隙に逃げてもいいんじゃないだろうかと思ったけど、珍しく好意を寄せてくれている音無さんに、少しだけ気持ちよさを感じた私は、下駄箱で待ってるとだけ言い残して下駄箱の前で待った。
それにしてもなんだかんだで音無さんのリズムにのせられている私は意外にも人と関わることに飢えていたのだろうか・・・・・・
それから数分が経った頃、一向に音無が現れる気配がない事に私は嫌な予感がした。まさかまた幽霊とやらに突き落とされて階段でのたばっていたりしないだろうか?
私は、少し心配しながら再び上履きに履き替えて、二階のトイレに向うことにした。
すると、2階へ登る途中階段の踊場で人が倒れていることに気づいた、駆け寄ると身体に包帯を巻いてうつ伏せに倒れている音無さんの姿があり、彼女は必死に身体を起こそうともがいていた。
「ちょ、ちょっと、音無さん」
「あ、あはは零さん、すみません遅くなっちゃって」
笑顔でそういう彼女に私の中には怒りがこみ上げてきた、その怒りは音無さん自身の不注意さに対してか、あるいはありえない話だと思っている幽霊に対してなのか。
何が何だか分からないけど、確実に怒りを感じながら音無さんを抱き上げた。
「また階段から落ちたの?」
「はい、少しふらついちゃって、すみません、大丈夫です頭は打っていませんから、本当にすみません」
一体音無さんは何に謝まっているのだろう、いったいどんな状況で落ちたかは分からないが、どうしてこんな目にあって笑っていられるのだろう、そして、もう少し痛がったり泣いたりでもすればいいのに、どうして。
そして、音無さんの身体に何か傷がないかと確認すべく身体を見るもすでにいくつかの痣があり、どれが一番新しい傷なのかは確認することが出来なかった。
「どうでもいいからとりあえず保健室に行こう」
私は音無さんを支えながら保健室まで運んだ、保健室にはまだ明かりがついており、中に入ると保険医の更科 恭子先生が私達の姿を見てニコニコとしていた。
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