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「あらマリーちゃん、また怪我したの?」
「えへへごめんなさいサラちゃん」
私はは音無さんを椅子に座らせると、更科先生が音無さんの意識がはっきりしているのか確かめた。
しかし、急患対応とは思えない雰囲気だな、しかも二人はかなり仲がよさそうだ。
「マリーちゃん、頭はうっていなぁい?」
「はい、こう見えても受け身にはそこそこ自身があるんですよ」
「そう、じゃあ大丈夫だと思うけど、でも痣がまた増えたわね、マリーちゃんは可愛いんだから、ちゃんと身体を大切にしないとね」
そう言ってまるで子どもをあやすように音無さんに抱きついて頭を撫でる更科先生。そんな光景を目にしていた私の視線に気づいたのか、先生は視線をこちらに向けた。
「今日はあなたがマリーちゃんを連れてきてくれたのかしら?」
女性の私からしてもドキッとする、色っぽい目線を向けてきた更科先生は、まさに大人の女性という感じだった。
「あ、はい」
「えーっと確か・・・・・・」
「私と同じ一年の友沢 零さん、略してゆうれいさんです」
音無さんはにこにことした笑顔で先生にそう伝えた、もう言うなと忠告したはずなのに。
しかもさっきまでの怪我が嘘のように音無さんは元気に更科先生と話しているし。
「マリーちゃんにもついにお友達が出来たのかしら?」
「友達というより仲間という感じです」
「ふふふ、なんだか楽しそうね」
楽しく談笑する音無さんはなんだか心地が良さそうだった、加えて更科先生の方も、まるで音無さんを自分の子どもか妹のように接していて、保健室内が温かい雰囲気に包まれていた。
「零さん知ってますか?この方は美人で有名な保険医の更科先生ことサラちゃんですよ」
「知ってる、男子が先生のことでよく騒いでる」
「うふふふ、そうなの?」
そんな事を言う更科先生は白衣を纏った美人保険医で生徒からは勿論、他の先生からも人気のある人だ。
顔よし、頭よし、スタイル抜群と言うことなしだが、そのルックスゆえ中々アプローチを掛ける人が少ないというのを人間ラジオで何度も聞いた覚えがある。
「でも良かったわね、こうしてマリーちゃんを助けてくれる人がいて」
「あ、はい、でも迷惑かけちゃいました」
小さな声でそんな事を言う音無さんはつくづく感情表現が得意なのか途端に悲しみの表情を見せた。
「別に、迷惑なんてかけられていないし、倒れている人がいたら助けるのは普通でしょ」
「だそうよマリーちゃん」
私の言葉に、音無さんは私をじっと見つめ、そしてぼーっとした後、急に我に返るかのように目をぱちくりさせた。
「は、はいっ、良かったです」
「あらら、マリーちゃん彼女に惚れた?」
「な、何言ってるんですかサラちゃんっ」
音無さんはあわてて更新先生の口を閉じようとするが、更科先生の長い腕によっていとも簡単に押さえつけられてしまっていた。
「あらあら、これは大変、真田先生が寂しくなるかもしれないわね」
「そんなんじゃないです、あと、サナゴリ先生はそういうのんじゃないです」
そう音無が言った途端、保健室の扉が勢い良く開かれる音がして私はすぐに振り向いた。するとそこにはパツパツのTシャツとジャージをきた真田先生がたっていた。
「うっす、更科先生見まわり終わりましたんで後はよろしくお願いします」
「げぇっ、サナゴリ先生」
音無さんは真田先生を見るなり更科先生にだきつき怯えていた。
「音無、そのサナゴリというのはやめろといっただろう、しかもまた更科先生に面倒かけて、本当にすみませんね先生」
「いえいえー」
「サナゴリ先生うるさーい」
「なにぃ」
「ひぃっ」
「まぁいい身体は大切にしろよ音無、では先生お疲れ様です、後はよろしくお願いします」
そう言ってまた勢い良く扉を閉めて保健室から姿を消した真田先生は典型的な体育会系の熱血野郎で私は少し息苦しくなった。
しかし、今の様子を見るからに音無さんは大丈夫のようだ。
後は更科先生に任せて私はさっさと帰るとしよう、そう思い保健室のからそーっと抜けだそうとしたがバタバタという音ともに音無さんが私のもとにやって来た。
「零さん一緒に帰りましょうって言ったじゃないですか」
犬のように私にまとわりつく音無さんとその後ろから近づいてくる更科先生。
「まだ帰るのはダメよ、マリーちゃんは少しだけ休んでいきなさい」
「でも零さんが帰っちゃいます」
「大丈夫よ私が少し足止めしとくから」
そう言って更科先生はぶつくさ言う音無をベッド横にしてほっぺたにチューをした。音無さんは奇声を上げたかと思うと、静かにベッドに横たわって静かにしていた。
そして更科先生はというと満足気な顔をして私とともに保健室を出た。
「零ちゃん」
ちゃん付けで呼ばれるとなんだか友達にでもなった気分だ、更科先生は普段から生徒にこんな態度で接しているのだろうか?
もしそうなのであれば男子生徒や教師たちは君付けで呼ばれているのだろう・・・・・・人気が出るのもわかる気がする。
「何ですか?」
「零ちゃんはマリーちゃんの友達?」
「いえ、友達ではないですけど」
「どうして?」
「ど、どうしてって言われてもつい最近であったばかりで、それも音無さんの方から一方的に私に関わってきているだけなので、私はなんとも」
「そうなの、てっきり友達だと思ったのに」
更科先生は少し残念そうな顔をしてため息をついた。自分でも普通に友達ですと言っておけばいいものを。変なところで維持を張るのは悪い癖なのかもしれない。
「あの、先生はどうしてそう思ったんですか?」
「え、あなたたちなんだか似ているもの」
「似ている?」
「マリーちゃんっていっつも幽霊のこと話して人のことは興味なしって感じでしょ、あなたもそんな感じがして」
「ど、どの辺がですか?」
「随分とあの場所を気に入っているようだけれど、あそこは基本的に立ち入り禁止なのよぉ」
完全に見通された物言いと、私を見透かしているかのような視線に、私は完全に動揺してしまった。
「いや、それはその・・・・・・」
「いいのよぉ、見逃すわ」
「あ、えっと、その」
「うふふ、二人とも我が道を征く、似てると思うわ」
頬に手を当て悪意に満ちた笑みでそういう更科先生、なんだか先生にはこれから先ずっと頭が上がりそうにない、というかこれからはあんまり近づかないようにしよう。
「ところで零ちゃんはマリーちゃんの話聞いたんでしょ」
「話、まさか幽霊のことですか?」
「そう、本当に困った話なの、最近はずっとマリーちゃんが保健室に来るだけなんだけど、前まではよく階段から落ちたっていう生徒が多くて困ってたのよ」
「まさか幽霊が本当にいるとか?」
「そうなのよねぇ」
「えっ」
私はそんな更科先生の言葉に鳥肌が立った。音無さんが言っているのとは違い、更科先生が幽霊はいるという言葉を発することに恐怖を感じた。
「じょ、冗談ですよね」
「本当よ、マリーちゃんは本当に幽霊を探しているのよ、そして幽霊は本当にいる。嘘だと思うなら、これから一人で学校中の階段をひたすら巡ってみるといいわ、必ず幽霊に出会うわよ」
そう断言した更科先生の瞳は私の目を真っ直ぐ見つめ離そうとしなかった。更科先生までもが音無さんと同じように幽霊の話をするなんて主負いもしなかった。
まさか、度重なる音無さんの幽霊話で精神的におかしくなってしまったのじゃないだろうか、そんな疑問を抱くほどにこの状況はおかしく感じた。
「なら、先生は音無さんが怪我をするのは幽霊の仕業だと思ってるんですか?」
「そうよ、こんな頻繁に階段から人が落っこちるなんてそうそうあることじゃないもの」
「いやいや、幽霊なんてものは偶然の一致、空想上の産物、この世に存在するなんてありえません」
「あら、でも私は見たことあるわよ、幽霊」
平然とそんなことを言う先生に私は突っ込むことすら出来なかった。
「へ、へぇーどんな姿だったんですか?」
「そうねぇ、千差万別の姿かたちで存在してるわよ」
こんなまともに見える大人の人が平然とこんなことを言っていることに呆れることを通り越して逆に真実味を帯びているように思えてきた。
「そ、そんなことよりも、更科先生はそんなに幽霊のことをよく知っているなら、音無さんを止めさせればよかったじゃないですか」
私は少し口調を強めて更科先生にそういった。すると先生は表情を変えること無く私の言葉を受け止めそして小さく頷いた。
「そう、やめさせるべきよね、彼女はとても危険な事をしていて、そしてそれを続ければいつか死ぬことだってありえるもの」
「なら」
「でも、やめないのよ、彼女は」
「どうしてですか?」
「彼女は幽霊を見たくて見たくてしかたがないのよ、それこそ、何かにとりつかれたようにひたすら幽霊の事を追い求めているわ、それに最近はついに幽霊の本拠地を見つけたって言って騒いでたし」
幽霊の本拠地、私がいつもいる屋上階段のことだろうか?
「ごめんね、いきなりこんなこと言っちゃって、でもマリーちゃんはそういう子だから私がどう言おうと止められないの、してあげられるとしたらここに運ばれてきた時に心と身体をたくさん癒してあげることだけ」
「そんなの、先生として間違ってませんか?」
「そうかも知れないわね」
「だったらっ」
と、なにかをいいかけたところで私は気づいた。
そうだ、何で私はこんな事に必死になって話しているんだ、別に音無さんなんて最近あったばかりの友達でもなんでもない存在に対してやたらと固執している。
「・・・・・・私、もう帰りますから」
私は先生にお辞儀して、その場から立ち去ることにした。
すると私の後方で「あーあ、だれか怪我ばかりのかわいそうなマリーちゃんを救ってくれる素敵な王子様はいないのかしらー?」などという言葉が聞こえてきて私はすかさず振り返った。
「な、何ですかいきなり」
「誰かが幽霊退治をしてくれたらマリーちゃんはこんなに痛い思いをしなくてすむのに」
「か、帰ります、私には何も出来ません」
そう言うと先生は帰ろうとした私の目の前に立ちはだかり、顔を近づけてきたかと思うと、私の手を取り髪の毛を耳にかけてきた。
「耳にピアス、マニキュア、生徒指導部である真田先生に言っちゃったら、それはそれは情熱的で愛のある指導を受けることになりそうねぇ」
「なっ」
「それから屋上階段」
「そ、それがなんですか?」
「あそこ、行けなくしちゃおうかしら」
それはもう耳が蕩けそうなくらいセクシーでそして意地悪な悪魔のささやきされた。そんな立て続けの更科先生による攻撃に私は反撃をすることが出来ず私はその場で立ち呆けてしまった。
なんということだ、私があの時、屋上階段で音無さんに見つけられたが最期だったというわけか。更科先生がそこまでして私にそんなことをさせたいのかはわからないけど、そんなに私に幽霊を見せつけたいのであれば確認してやろうじゃないか。
そしたら音無さんが屋上に来ることはないし、更科先生による脅迫も無くなるだろう。私がこの幽霊騒ぎを解決して、それで学校にも私にも平穏が戻って、そして音無さんもこれ以上痛い思いをしなくてすむ、よし完璧だ。
「わ、分かりましたよ、行きますよ、幽霊なんていないことを証明してみせます」
私は半ばやけくそ気味に先生の挑発にノッてしまい、自分の考えとは全く反する考えを正当化してしていた。
「うんうん、かっこいーな零ちゃんは、あっ、終わったら私のもとに来るのよ」
「わかってます、ここに戻ってきて音無さんの悔しがる顔を見ないといけないですからね」
「うふふ、そうね、それから戻ってこなかったら私がちゃんと助けにいってあげるから安心してね」
そう言って長い手を振り回し私を見送る更科先生、しかも帰ってこれなかったらって、まるで私が帰らぬ人になりかねないような言葉を送って来るなんてあまりにも不穏すぎやしないだろうか。
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