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Case1 「ひとつだけじゃダメな女」
20年経った今も忘れもしない。
9歳の時、私は小学校の正門前で母親にこんな質問した。
「ねえ、人間ってどうやって生まれてくるの?」
母はいつかくる、子どもからの赤ちゃんの作り方の問いに対して私にこう答えた。
「お父さんと同じ布団で寝てたらあんたができた」
小さい頃の刷り込みってのは怖いもので、私はそれから父親と昼寝することを拒み続けて大人になった。
父親は娘の昼寝拒否の理由についてわからないまま、この世を去った。
今、私の隣には理想を詰め込んだ男が静かに息をしながら寝ている。
同じ布団で寝て六ヶ月、私の腹には子は宿ってはいない。
2016年 8月
6ヶ月前の夏の日、私はこの男と添い寝をする権利を買った。
彼と私は「ビジネス」 としてこの関係が成り立っている。
彼が私に与えてくれるサービス内容は、毎月4回、金曜日の21時に会社の最寄駅で待ち合わせをして、私の家に一緒に帰る。
それぞれシャワーを浴びて、パジャマを着て暖かいお茶を飲みながら談笑しながら布団に入る。私が寝付くまで彼は起きていて朝の七時まで一緒のベッドで眠る。
七時に彼は目覚め、身支度を静かに整えてから七時半に家を出て行く。
このサービスを受ける価格は、四万円。
禁止事項として、月四回の日以外は連絡はしてはいけない、男女の関係になってはいけない、許されるスキンシップはハグまでとなっている。
顎と鼻もまつげの先も寝顔も完璧なこの男の時間を買った私はこの半年間、月四回の楽しみのために働いていた。
メンタルも荒ぶることなく充実した毎日を送っていた。
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