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立派な庭園は、まるで宮殿の庭のようだった。様々な花が咲き乱れる庭園はゆるやかな丘を作り出し、その奥に大きな屋敷が建っている。白亜の宮殿――まるで公園のような広さの庭を歩きながら、タカヤは広大な敷地に感心していた。
「無駄だよなぁ」
呆れた口調で呟いて、サリエルは苦笑する。家の大きさも、敷地の広さも、資産や金に執着しないサリエルにとっては莫大な管理費がかかる無駄な存在だった。
「サリエルは、この家が嫌いなのか?」
広くて立派で、嫌う理由がわからない。きょとんと首を傾げたタカヤの手を握りながら、額に軽いキスを落とす。
「嫌いってほど、感情移入してないけど」
「けど?」
「タカヤが好きなら、こういう家を建てようか」
本気で言っているらしいサリエルの言葉に、どう反応していいか困る。別に広い必要もないし、管理が面倒そう……顔に表れた素直な感情に、くすくす笑い出したサリエルが髪を撫でた。
「ごめん、意地悪じゃないよ。ほら、やっと着く」
言葉通り、玄関へのアプローチが終わる。入り口でタカヤが歩きたいと言わなければ、ここまで車で来たのだろうけれど……。
「お待ちしておりました、サリエル様」
丁寧な挨拶で迎えてくれる執事に、鷹揚な態度で隣を擦り抜けるサリエル。握った手が促すままに中へ踏み込み、美しい外見を裏切らない屋敷の内装に感嘆する。
「兄さん、随分遅かったんですね」
「……兄って呼ぶな」
「わかりました。では、サリエルさんもタカヤさんも……どうぞこちらへ」
金髪の少年が笑顔で出迎えてくれた。サリエルを兄と呼ぶ時点で、この少年が弟なのだと理解したが……まったくと言っていい程似ていない。腹違いでも、父親は同じなのに。
家の主である少年が導いたのは、庭を一望できる2階のテラスだった。
「お茶は何がいいですか?」
「いらない」
「冷たいですね……」
残念そうに言われ、俯く姿は同情を誘う。しかしサリエルは慣れている分、そんな少年の態度にも絆されなかった。
「報告に来ただけだ。これからオレ、タカヤと暮らすから」
「……タカヤさん、男ですよね?」
「そうだけど、何?」
「いえ、別に」
兄弟の久しぶりの会話を、タカヤは小首を傾げて見ていた。サリエルが言っていた程、仲が悪いようには思えない。
「じゃ、挨拶はしたからな!」
念を押して、タカヤの腰を抱くと踵を返す。
「本当に帰っちゃうんですか?」
まだ15歳くらいの外見相応の幼さで、慌てて後ろを走ってくる。
「サリエル……」
くいっと袖を引いて呼び止めようとすれば、逆にお姫様抱っこで抱え上げられてしまった。
「いいの、タカヤは気にしない」
まだ5分も滞在していないのに、サリエルはさっさと家を出てしまう。庭の途中で置いてきた筈の愛車は、いつの間にやら玄関に横付けされていた。
「兄さん!」
「用があるなら、そっちから出向け」
助手席のタカヤへ柔らかな笑みを向けた少年に、吐き捨てたサリエルは車を発進させる。家族に紹介したというより、顔を見せただけの数分間に……普段は大人びているサリエルの意外な一面を見た気がして、タカヤは目を瞬かせた。
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