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届いた料理を楽しみ、お気に入りのワインを2本あけて御機嫌のサリエルが、電話に出たのは奇跡に近かった。胸ポケットに入れっぱなしの携帯が鳴り始め、ちょうどタカヤが隣にいなかったのも手伝って通話ボタンを押してしまう。
その行為を後悔したのは、言うまでもなかった。
「……はいはい、何とかします」
嫌々答え、頭の痛くなる電話内容に眉を顰める。冷凍庫で冷やしていたアイスを大事そうに抱えて、タカヤが戻ってきた。
携帯を前に唸っている恋人の隣に座り、不思議そうに首を傾げて見つめる。
「あのね……タカヤ」
言いづらそうに切り出し、溜め息を吐いた。
「お店から呼び出されちゃった」
「お客さんか?」
「ある意味……そうかな。弟のミカエルが店に陣取ってるんだってさ」
がっくりと肩を落とし、頭を抱えて項垂れる姿は、同情を誘う。だが、タカヤにはサリエルがそこまで落ち込む理由がわからなかった。
「弟さんがいると、何か問題あるのか?」
「ある!」
断言して立ち上がったサリエルの手が、ダイニングの椅子に放ってあったコートを掴んだ。
「タカヤも一緒に行こうか」
連れて来いと騒がれても、実は連れて行きたくない。別に店をつぶされても構わないが、コートに袖を通すサリエルを寂しそうに見つめる姿に、置いていくのが忍びなくて声を掛けていた。
「いいのか?」
遠慮がちに尋ねるタカヤへ、白いコートを掛けてやる。嬉しそうに腕に抱きつく恋人をエスコートしながら、愛車の鍵を掴むと部屋を後にした。
見慣れた店の前に……物騒な車が数台。さすがに警察に検挙されることもなく、護衛付で並んでいた。その隣に二重駐車して、スポーツカーのキーを護衛に押し付ける。
「持ってろ」
「かしこまりました」
丁重に頭を下げる大柄な男にひらひら手を振って、地下への階段を下りる。しっかりと腕を組んだ恋人と微笑を交わす姿は、これからマフィアの巣になっている店に出向くようには見えなかった。
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