【完結】うたかたの夢

31/35

518人が本棚に入れています
本棚に追加
/35ページ
「再会に……」  穏やかな表情で、タカヤがカクテルに口をつける。隣でジンに用意させたブランデーを煽り、ご機嫌でサリエルもソファに深く身を沈めた。 「ジン、カイン。おまえらも来いよ」  オーナー直々の呼び出しに、カウンターで壁の花に徹していたジンが歩み寄る。少し離れた席で暇つぶしのヘルプをしていたカインも、同様に近づいた。 「紹介しとく。オレの最愛の人、タカヤだ」  いきなり紹介され、しかも内容が内容なだけに顔を赤らめたタカヤに、2人は顔を見合わせた。確かに出会った瞬間から大切にしているとは思っていたが、まさか『恋人』だとは思わなかったのだ。今までに浮いた噂のひとつもなかったサリエルなだけに、余計驚いた。 「ジンです。サリエルさんの仕事上のマネージャーと手伝いをさせていただいています。よろしくお願いします」  丁重に挨拶したのは、『サリエルが紹介した人』だからだ。今後も付き合いが長くなりそうだと判断したジンは、謙遜気味に自分の立場を口にした。 「元医学生で、今は経理を担当させてる」  付け加えられた経歴に、タカヤは小さく頷いて「こちらこそよろしくお願いします」と頭を下げる。  どうやらサリエルが大切にしている人たちに紹介されるらしい。そう判断したタカヤは、嬉しさに顔を綻ばせた。  好き勝手に跳ねる赤茶の髪の小柄な青年が、続いて声をかけた。 「カインです。血は繋がってないけど、弟みたいな感じに考えてくれると嬉しいな」  意味深な挨拶に、タカヤが小首を傾げる。そこへジャックから声が掛かった。 「カイン、サエさんが来たぞ」 「あ、いけね」  慌てて馴染み客の方へ意識を向けたカインの様子に、ピンと来たサリエルがジャックに耳打ちした。聞こえなかった言葉に頷き、カインへ待っていろと合図したジャックが入り口へ向かう。 「2人とも座れば?」 「はい」  大人しく向かいに座ったジンと、客が気になって立ち尽くすカインは対照的だった。 「カイン」 「でも……サエさんが来てる」  ただの客として扱っていないカインの態度に、ジンもくすっと笑みを漏らす。それでサリエルがジャックに耳打ちしていたのだと、ようやく状況が飲み込めた。 「すぐ案内されてくるぜ。ほら」  サリエルが示した通り、ジャックにエスコートされて可愛らしい女性が歩いてくる。途中でカインがエスコート役を代わり、サリエル達のテーブルに落ち着いた。
/35ページ

最初のコメントを投稿しよう!

518人が本棚に入れています
本棚に追加