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「こんばんわ、サエさん」
にっこりとサリエルの営業スマイルを向けられ、サエは頬を染める。
「豪華な顔ぶれね」
肩に触れる長さの黒髪は艶やかで、さらりと流れて柔らかそうだった。サエの髪を一房指に絡め、カインが接吻ける。
「妬けちゃうな」
拗ねた子供の顔で、唇を尖らせる。カインの仕草に演技はなく、それが年齢より幼く見えて可愛らしかった。桜色に染めた爪が彩る白い指で、サエがカインの頬へ手を滑らせる。
「あら。嬉しいわ」
笑顔で頬にキスしたサエと、少し赤くなった顔で笑うカインを見比べていたタカヤが、隣のサリエルの袖を引いた。
「ん? どうした?」
「……あの2人、恋人同士なのか?」
真っ直ぐな疑問に、顔を赤らめたのはカインとサエだった。笑んだジンが頷きで肯定し、俯いた2人の初々しい姿の微笑ましさに表情が和らぐ。
「恋人同士では、ないのよ……まだ」
付け加えられたサエの小さな声に、サリエルが眉を顰めて身を乗り出す。
「まだってことは……カイン、告白してないのかよ」
言っちゃえ! と嗾けるサリエルの隣でタカヤも頷く。優しく見守るジンにも一度視線を向けて、大きく深呼吸した。
店のざわめきは大きくて、きっと周囲のテーブルまでは聞こえないだろう。それでも同じテーブルの人間なら聞き逃さない、はっきりとした声で告げた。
「サエさんが好きです!! 付き合ってください!」
言い切って、黒い瞳を瞬く。
待つ時間はさほど長くなかった。
コクンと頷いて微笑んだサエに、感極まったカインが抱き着く。ホストと客とは思えない幼い恋の成就に、タカヤの唇から「良かった」と言葉が零れた。
「では、お祝いのシャンパンタワーでも奢りますか」
用意をジンに頼み、サリエルは組んだ膝の上でグラスを弄ぶ。少し言いにくそうな仕草を見せて、サエに青紫の瞳を向けた。
「カインはオレにとって家族と同じだから、幸せになって欲しいんだ……サエさんに、お願いできるかな」
幸せにしてやって欲しい。普通は女性側の親族なり友人から男性に告げられる言葉だろう。しかしカインは見た目通りに子供で、まだ甘やかされていい年齢だった。だから失礼かと思いながらも、サリエルは彼女に頼むのだ。
「ええ、もちろん」
可愛らしく首を傾げて聞いていたサエが、ふわりと笑う。
その後のテーブルは盛り上がり、宣言通りにサリエルの奢りで幕を閉じたのは深夜になってからだった。
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