【完結】うたかたの夢

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 何を言い出すのか。  意味を捉えかねて、首を傾げた。とりあえず屈んで、床に膝をつく。下から覗き込めば、泣き出しそうになっているタカヤに心臓が高鳴った。 「どうしたの?」 「お前は何でも持っている。俺と違って……だから」 「だから何?」  途中で遮った。聞かなくていい。言わせたくない言葉が続くと分かっていたから、タカヤが自分を傷つける言葉を吐き出すのが許せなかった。誰だろうと、タカヤを傷つける者は許さない。それがタカヤ自身だとしても。  お前を閉じ込めて手足の自由を奪って、好き勝手に扱おうと思うような男の前で、隙を見せすぎだ。独占したい欲を飲み込んで、代わりに息を吐いた。 「タカヤがすべてを捨ててくれって言ったら、捨てる。もっとくれと強請れば、どんな手段を使っても与えてやる。それはオレの特権だからね、でも卑下したり自傷するのは……止めて欲しい」  本当に、真っ直ぐに育てられたのだろう。両親の愛を一身に受けて、ただひたすらに慈しんで守られて育った魂だから、すべてを奪われた時に壊れそうになった。  あの惨劇の場で、タカヤがオレを救ってくれたのだと――気づきもしない。自己保身だけを考える汚い人間に、優しく手を伸ばし……ずっと温もりを分け与えてくれた。  そんなタカヤだから好きになった。ずっと隣にいて欲しいと願うのは、おこがましいのかも知れない。薄汚い男が、手に入れられる存在ではないと思うけれど、一度知った温もりを失って生きていけるほど、キレイな人間じゃないから。 「ずっと隣にいてくれ」 「サリエル?」 「タカヤがいなくなったら……生きていけないんだ」  何も言わずに抱き締めてくれる、タカヤの腕が嬉しかった。自分より大きな体を必死で抱き締めて、傷つけてしまった心を包み込んでくれる優しさに、サリエルが微笑んだ。  空気より当たり前に、水より切実に求め続けた……そうしないと、もう呼吸すら出来ない。 「愛してるよ……タカヤ」  ふわりと笑んでくれるタカヤの笑みを心に焼き付けて、サリエルは静かに目を閉じた。                  The END or……
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