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これから店じまいをするという曜さんと一緒に帰るため、私はお店の裏口で待つことにした。付近には飲食店がいくつかあるとはいえ、裏口なのだからとにかく暗い。
そんな中、ぬっと大きなひとかげが現れる。スキンヘッドの大きな人で目つきはとても悪い人だ。何も知らなければ周りの暗さもあって悲鳴を上げていただろう。しかし私はその人を知っている。曜さんのボスだ。店長さんは裏口の扉を開け、そのままにする。
「こんばんは。曜さんを待たせてもらってます」
「こちら、どうぞ。裏口は暗いので女性は待たないほうが」
ぎこちない店長さんの言葉には優しさに溢れていた。裏口前とはいえ夜道。なので邪魔だろうに店の中で待つ様言ってくれたのだ。さすが美人の奥さんと可愛い娘さんのいる旦那様。気遣いが半端ない。ここはお言葉に甘えてダンボールだらけの通路にお邪魔させてもらうことにする。
「ありがとうございます」
「いえ、こちらこそあいつにばかり頼っていてすみません。あいつはなんでもこなすような奴なので、つい」
「わかります、頼りがいのある人ですからね」
私がそういえば、店長さんはにこりと笑った。何も知らなければ怖いと思うような笑顔だけど、私にはデフォルメされたクマくらいには可愛く見える。
「曜から聞きました。樫原さんは先生という立場なので女装したままお付き合いすることになったと」
「き、聞いてたんですか……」
曜さん、店長さんに話を通していたんだ……
話が早くて助かるけども、告白した理由まで知られるのはめちゃくちゃにはずかしい。
「こちらも秘密は守りますので」
「そうしてもらえると助かります。あの、お店や曜さんのご迷惑だとは思うのですが」
「迷惑だなんてとんでもない。店としてはあいつの技術は上がったし、あいつも貴方に会えると嬉しそうですから」
第三者からこういう風に曜さんの情報を聞くと、なんだかうれしい。嘘つかなそうな店長さんだから余計にそう思えるのかもしれない。
女装や交際のせいで仕事に支障出たり店長達によく思われなかったらどうしようかと思ったけど、そんなことはなかった。ていうか、さすが曜さんに女装を認めている店長さんだ。細かな事で文句を言う人ではない。
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