朝一番の教室、脅迫する生徒

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春の冷え込む夜道の中、すぐそばのあたたかい体温に甘えるように歩く。しかし煌々と夜道を照らすコンビニの前、そこに二人分の人影に気付いて体を離した。高い声が夜道に響く。 「あっ、カシちゃん先生だー!」 体を離して正解だった。コンビニ前にいたのは私の教え子だったからだ。例え私と曜さんが女同士に見えるとしても、あんなにひっついているところを見られるのはよくない。 私をカシちゃんと呼ぶのはスクールカースト上位の美少女、乾さん。あかぬけた容姿に明るく前向きな性格の人気者だ。ちなみに、前に『結婚出産したら認めて上げます』言った保護者の娘でもある。 カシちゃんと言うのは名字の樫原からとったのだろう。気がつけば彼女以外にもそう呼ばれている。嫌われてはいないようだけど、舐められているのは間違いない。 「こんばんは、樫原先生」 こちらはまともに呼んでくれるけど感情が一切ない美少年、鳥野君。この間の鳥野さんの息子だ。この子は乾さんの彼氏だという噂がある。中二なのに背が高くて大人びたきれいな顔立ちに、運動も勉強もできるという超人。ただしクールというか、近寄りがたい雰囲気がある。 何ということだ、モンペ界のツートップの子供達と出会ってしまうなんて。クレームを気にしないようにしたって身構えてしまう。でもここは先生らしく、『中学生が夜遅く出歩いている事』を叱らないと。 「二人共、保護者の方はいないの? いないのなら早く帰りなさい」 「やだなぁ、塾だよ。今帰るとこだったからゆるして」 乾さんは明るく答える。『今帰るとこだった』なんて嘘だ。塾帰りが真実だとしても、コンビニに寄ってだらだら喋るつもりだったに違いない。そう思っていても、必要以上に責めるわけにはいかない。 「危ないから早く帰るようにね」 「はーい。でも先生も友達と遊ぶんでしょ。女の人二人で歩いてんだから、先生も気をつけなよ……ってなにその人! やばいぐらいにきれい!」 ここで乾さんの視線は曜さんに集中した。この夜道でやっと曜さんの美貌に気付いたのだろう。『わー顔ちっちゃい』『色白い』『目が大きい』なんて言いながら眺めている。 誇らしいけどいつ女装がバレのかヒヤヒヤする。幸い話をしてある曜さんはにこにこ友達として振る舞ってくれているけれど。 「先生の友達?」 「あ、うん。そうなの」 「これからお酒飲んだりするの? いいなぁ、楽しそう」 「乾。帰ろう」 楽しそうな乾さんに、ぴしゃりとした鳥野くんのは言葉が遮った。あいかわらずクールだけど、怒ってはいない。きっと早く帰りたいだけだ。 「あ、そうだね。鳥野君ごめん、送ってもらってるのに。じゃあね、カシちゃん」 乾さんは大きく手を振って、鳥野君と共にコンビニの前から去った。多分二人は一緒の塾に通ってて、遅くなるから鳥野君が乾さんを送っているのだろう。 しかし去り際、鳥野君は私と曜さんを見た。あいかわらず整っているけど感情のない目で、見る必要のないような私達を見た。 なんだったんだろう。 「今の子達が担当するクラスの子? カースト上位ってかんじ」 「うん。クラスの中心っていうか。モンペ様の中心ともいう」 「鳥野ってこの間のモンペ様だよね。じゃああの子がチーズケーキを食べる事になった子か」 あいかわらずお客様のことをよく覚えている。前に鳥野君のお母さんがケーキを買いに来たんだけど、それは不倫相手と一緒に食べるものを、バレるのを恐れて急遽家族と食べるようにしたという話だ。 曜さんは遠くの二人の背中を眺めて考え込む 「モンペ様の息子って、歩ちゃんのこと好きだったりしない?」 「鳥野君が? それだけはないよ。クールな子だし、隣には美少女の乾さんがいるし」 どうして曜さんはそんな事を言い出したのだろう。あまりにもありえないことなので笑ってしまった。多分母親から私の文句は聞かされているだろうけど、鳥野君が私に対して何も思う事はないと思う。彼の視線は、他人にあまり興味がないような淡白なものだ。 「視線がそれっぽかったんだけどなー。ま、ライバルはいない方がいいけどね」 もう友達同士を装うつもりはないのでまた近寄って手を繋いだ。今度こそこのまま最後まで手を繋いでいたい。
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