朝一番の教室、脅迫する生徒

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■■■ それからその日のうちに、仕事中の曜さんにことの次第を説明した。相変わらず夜遅くの営業時間にはあまり客が来ない。 「ふっ、っくく、あははは!」 曜さんは可愛い制服が台無しなほど、男モードで豪快に笑っていた。そんなに笑わなくても。私だけがおかしいわけじゃないけれど、私がおかしいように思えてしまう。 確かに曜さんから見れば、適当に言ったつもりの言葉がその通りになって、けれど意外な動機があった事には驚いたけど。 「いや、本当に良かったよ。バレないのが一番だし、あの子なら秘密を守ってくれるな」 曜さんは笑いすぎて出た涙を指先で拭った。確かにバレないのが一番。でも女同士のカップルだと思われてしまった。それだってバレるとまずい話だ。 「本当に秘密を守ってくれるかな。あの子、まだ中学生なんだし。気が変わることもあるかも」 「いや、女同士の絡みが好きっていう男にはただのハーレム願望だったりするから信用できないけど、あれだけこじらせた百合男子なら大丈夫だよ。中学生にしてあのこじらせぶりはレベルが高い。ようやく見つけたカップルを壊すような真似しないよ」 曜さんは男子にしかわからないような話をした。うーん、そういえば私も面食いだからきれいな女の子を見るのは好きだ。きれいなものが二つ並んでいるのなら嫌いになる理由はないとは思う。だからわからなくもない気持ち……だけど鳥野君の考えまでは理解できない。 「オレも百合は結構アリだね。でもそれはハーレム願望だと思う」 「……ハーレム、したいんだ」 「うん。歩ちゃんが二人いてオレを取り合ってくれたら最高だと思う。この間までのモンペに疲れ切った歩ちゃんと今の歩ちゃんで」 一瞬浮気かと思ったけどとんでもない惚気だった。それを真顔で言う曜さん。どこまで本気なんだろう。 「とにかく大丈夫だって。それにいくら疑われてるって言ったって、女同士のカップルなんてそう信じられないよ。証拠もないんだし」 「それもそっか」 「部屋に入ったらお泊り会、ラブホ入ってもラブホ女子会。たとえ写真撮られたってどうとでも言えるさ」 「女同士カップルの方がごまかしがきくんだね……」 女同士の恋愛はいくらでもごまかせる。恋人のようにべたべたして仲が良くてもそういうものだと思えるからだ。そう考えると、曜さんに告白してしまった私はかなりいい選択をしたのではないだろうか。ややこしい事態になってたわけだけど。 「まぁ、聞き捨てならないのは鳥野君が歩ちゃんを好きになったことかな。偽装とはいえ彼女ができたならもう関わることはないけど」 「『特別な好き』って、心配するような好きじゃないと思うけど」 「嫌われてるってことでもないだろ?」 「……うん」 思い当たる事があったので、私は謙遜することなくうなずいた。 鳥野君から、最初は嫌われていたんだと思う。私はモンペの目ばかり気にして、生徒の事なんてちっとも見ていなかった。それにモンペからの悪い噂ばかり聞かれていたはずだ。 けれど私を脅迫した時、鳥野君は少しずつ私への印象を変えていった。きっとだめな先生だと思っていただろうからびっくりしたはず。まあ私もいい先生になろうとしたばかりだから勢いがあっただけだけど。 そして今日。私は鳥野君の気持ちを読み取った。その読み取った気持ちは私が思っていたものと 違ったけど、鳥野君は都合よく受け取った。もしかしたら『この先生は素晴らしい!』とまで思っているのかもしれない。あの美少女乾さんと同じ立場なのだから、かなりの株が上がったのだろう。 「いいのかな。こんな付け焼き刃でいい先生ぶって生徒とうまくいって」 「付け焼き刃だってやわやわな鳥野君に刺さったんだから、問題なくない?」 鳥野君は豆腐か。でもまぁ、曜さんの言いたい事はわかる。今回はたまたまうまくいっただけ。それに罪悪感を覚える必要はない。それよりもこのまぐれの成功を活かして、もっと生徒のことをよく見ることにしよう。 「それで、今日のケーキはどうなさいます?」 「豆腐と抹茶のケーキで」 「おまけにオレをお持ち帰りはいかがでしょう?」 「……うーん、この間もお持ち帰りしたしなぁ」 「どう見ても女の子にしか見えない彼氏ですよー保護者生徒に見られても大丈夫な彼氏ですよー」  曜さんは店員モードてそんな冗談を言ってきた。そんな事を言われてはお得に思えてお持ち帰りしてしまう。にやにやが止まらない。 「じゃあそれもお持ち帰りで」 「かしこまりました。裏口でお待ちくださーい」 問題ごとが一つ解決した。お持ち帰り位したっていいのかもしれない。女装男子を彼氏にしてもバレないものなんだから。
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