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敵に気付かれたくない一心で呼吸がとても小さくなっている。戦闘機の内側にいるのだから、人間の呼吸で気付かれるということはあり得ないとわかっていつつも、ついやってしまう。
「距離約一万。そろそろ気合入れとけよ坊主!」
短距離通信で回線が繋がっていた。あとたったの一万キロ……
「あの、小隊長……奇襲、成功しますかね?」
「それは相手に気付かれずに先制攻撃できるかって意味か? そいつはまず無理だ。やつらはセンサー類とも神経が直接繋がっている。こっちのセンサー類とは比べ物にならないくらいに鼻が利くって訳だ。絶対に気付かれる」
「え……じゃあ、なんでこんな小惑星に身を隠しているんですか!?」
ブリーフィングでは小惑星に隠れつつ、機雷と併用しての奇襲をするという説明だったはずだ。もっとも、その時点ではエース機がくる想定ではなかったが。
「いいか坊主、こいつは盾だ。敵の目からじゃねえ、敵の武器から身を隠す盾だ。こいつの後ろなら光学照準は使えないし、高出力レーザーも一秒は耐えられる。いざとなったら蹴飛ばして敵にぶつけることもできる便利な盾だ。覚えとけよ」
さっきまでとは違い、落ち着いた声色で説明された。モニターを覗くと、静かな眼差しで真正面を見つめる隊長の顔があった。
緊張感が伝わる。敵が近くまで来ているのを嫌でも実感した。
「おい聞け坊主、お前はいつも通りやればいい。生きろ。それが俺から伝えるただ一つの命令だ」
「それってどういう……」
そこまで言いかけたところで、とうとう敵機が機雷原の前までやってきた。
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