新米兵士は死にたくない

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 こちらは機雷原から少し後方、防衛目標への最短ルートを挟んで左右三班ずつに分かれた状態で待機している。  機雷原直前までは猛スピードでやってきた敵機はそのまま機雷の中へ突入するかと思いきや急停止、そのまま辺りを伺うようにじっとしている。  ゆっくりと視線を動かしては止めることを繰り返す。五度目の停止時、背筋に悪寒が走った。見てる! 確実に気付いてる!  そして更に視線をずらしてもう一度停止、計六回動きを止めて見ていた。こちらの班の数と同じ、六回。こちらの状況は把握済みだと気付かせるために、わざわざ…… 「落ち着け。向こうが気付くのは想定内だ」  そうだ、隊長も言っていた。落ち着け。まだ、まだ大丈夫。  そのまま数秒間、睨み合いが続いた。そしておもむろに敵機がゆっくり動きだした。  次の瞬間、いくつもの機雷が爆発し始めた。最初ゆっくりに思えた機体だったが、爆発する直前に機雷の横を通った時にかろうじて視認できるほどの速さで動いていた。 初動がまるで人が歩き出すかのように自然な動きで錯覚したんだ。 「は、早い! くそ!」  おそらく何の苦労も無く避けられるであろう機雷を一つ、また一つと破壊していく。銃で撃ち抜くのではなく、直接触れて爆発する前に離れるという言葉通りの離れ業──  このまま目的地まで一直線に進めば誰も止められやしないのに、おちょくっているのか? 「全機に告ぐ。敵機は機雷の掃除が粗方終わったらこっちに向かってくるぞ! 的になった奴はなるべく距離を稼ぎながら迎撃、無理ならとにかく逃げろ! 他は援護射撃! ダメージはなくてもいい、とにかく弾幕の中にぶち込め!」  また俺には意味のわからない命令だった。ダメージがなくてもいい? そもそも、本当に機雷掃除の後にわざわざこっちへくるのか?  だけど、戦場は小隊長の言う通りに進んでいた。  機雷をつぶしていた敵機が唐突に向きを変えて俺たちへ向かってきた。いや、俺たちの隣の三人組へ一直線に…… 「坊主! 追うぞ!」  小隊長の怒声で我に返る。そうだ、援護にいかないと。  震える身体をなんとか抑えつつ味方の元へ向かう。大丈夫、まだ、大丈夫。
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