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妹に会いに行った
俺は十年前、二十歳の時に旅行先で足をすべらせ異世界に転移した。
転移先で魔王を退治し勇者と呼ばれた。手柄を取った褒美に元の世界に戻らせてほしいと頼んだ。
「ヒーヒッヒッヒ。この世界にいれば英雄と呼ばれ続けるのにのう、本当によいのか?」
通力使いのばーさんは、何度も念をおしてきたが俺に迷いはなかった。
「妹が心配なんだ。急に俺がいなくなって心配してるだろうし。」
俺には三歳年下の妹がいる。両親は小さい頃に亡くなった。
「勇者様! わたくしをおいて戻られるのですか?」
絶世の美女である姫に呼び止められた。見た目だけでなく心も美しいお方だ。
「申し訳ありません、姫。」
「そんな……!」
姫は泣き崩れた。
俺のことが好きだったそうで、魔王を退治した褒美に姫と結婚させてやろうという話があったが、元の世界に戻るため断った。
「ヒーヒッヒッヒ。いいんじゃな。こちらの世界には戻ってこれんぞ。」
「ああ、よろしく頼む!」
通力使いのばーさんの手から光が放たれた。まばゆい光に包まれて俺は元の日本に戻った。
妹と住んでいた町をめざす。
大きな公園に妹の姿が見えた。十年経っても分かる。少し太ったな。
「おい!」
妹が振り返った。
「…………えっ。お兄……ちゃん……?」
妹が呆然としている。
「ただいま!」
走り寄って抱きしめた。
「会いたかった!」
「……どう……したの? 今まで、どこにいたの?」
「えっと、信じてもらえないかもだけど、異世界転移して魔王をやっつけたんだ!」
「そう……なの……。どうしよう……。」
「えっ。俺が戻ってきちゃまずかった?」
「私達のおじいちゃんだって人の遺産が入ったの。」
「えっ! すげえじゃん。」
「うん。でもお兄ちゃん居なかったから、失踪届出して私が全部相続しちゃったよ。」
「そっかそっか。仕事決まるまで養ってもらうよ。」
「私、結婚して子供もいるの。だからお兄ちゃんとは暮らせないの。ごめんね。」
「えっ、俺どうすればいいんだよ!」
「市役所で聞いてみて。お兄ちゃん、死んじゃったことになってるから。」
「そんなあっ!」
完
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