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その日私は、職業安定所にいた。 最近、結婚の話を実家の親から何度もされるし、見合いの話もやたらとあったが、とても結婚なんてものに気持ちが行かなかった。 OLを辞めてから代官山に出したセレクトショップが軌道に乗らず、しばらくはキャバ嬢をしていたが、NO1にはなったものの、身体を壊して入院した。 年齢も後2年で30歳、キャバ嬢も潮時かと思い、また会社勤めに逆戻りするつもりだった。 しかしバブルも弾け、不況の波はさらに激しくなり、今や就職難の真っ只中。 バブルの頃のように浮かれながら仕事をし、サーフィンに入れあげたり、ディスコのお立ち台で扇子を振っていても何とかなったような時代は、もうとっくに終わっていた。 金髪にしていた髪を真っ黒に戻したばかりだが、こっちの方がオリジナルなのに、妙に落ち着かなかった。 時代は世紀末。 もう今世紀で、全ては終わってしまうのかと思った。 巨大な地震が起き、多くの人が死に、カルト宗教団によるテロ事件まで起きた時には、本気でそう思ってしまった。 キャバ嬢時代に貯まったお金を切り崩して職安通いをしている毎日だったが、憂さ晴らしに夜な夜な渋谷のクラブにも通った。 あの人がいた。 DJブースに、キャップにサングラスにあご髭、黒のTシャツにワークパンツ、足にはエアマックスを履いた、様変わりしたあの人がいた。 人気のあるDJさんみたいだった。 私は踊るでもなく、ただ身体を揺らすだけ。 朝までやってるこのクラブでは、何度かナンパされたけど、相手にしなかった。 だって私は、途中からあの人に会いたくて、このクラブに通っていただけだから。 DJブースを覗きこんだりしていたから、私の存在にあの人は気がついているはずだけど、何も言わなかった。 そのうちあの人を見かけなくなった。 噂ではDJとして海外に行ったと聞いた。 私がクラブ通いする理由もなくなってしまった。 私は就職が決まったことも重なり、すっかり夜な夜なのクラブ通いをやめた。 また、さようならも言えなかった。 今度こそ、本当のお別れかもしれない。 全てはもう終わり。 あの人は、もうこの国にいないんだから…
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