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「パイセン、お世話になりました」
会社の地味な後輩が、頭を下げてきた。
「まあ、よかったわよ」
後輩はもうすぐ結婚し、寿退社らしい。
「ちゃんと家庭に入って幸せになりなよ」
「はい。でも私、子供なんか育てられないから」
「いや、いや、そんなことないから。あんたは意外としっかりしてるから」
「そうですかね?」
「そうよ。頑張って幸せになりなよ」
「はい!頑張ります!」
これでまた後輩がいなくなる。
というか、この会社にいる女子で、結婚していないのはもう私だけだ。
この会社の女子では、私が一番年上で、後輩から順番に結婚していった。
結局、私だけが独身。
だからって仕事に支障はきたさないし、給料も下がらない。
ただそれだけのこと。
私は私の人生を生きるしかないんだから。
これも運命だから。
通勤に毎日、渋谷のスクランブル交差点を通る。
この交差点の賑わいは、昔からさほど変わらない。
またここで、
あの人とすれ違った。
ロン毛にダークスーツ姿。
携帯で仕事の話をしながら歩いている。
どうやら日本に帰って来たみたいだ。
私に気がついているはずだけど、何も言わずにまたすれ違った。
仕事、うまくいってるみたい。
起業して自分で会社をやってるらしい。
もう昔みたいに真っ黒に日焼けしてはいないけど、顔の血色がよく元気そう。
スクランブル交差点では、たまにすれ違ったが、それだけで良かった。
でもいつの日か、またあの人を見かけなくなった。
この交差点ですれ違うことは、それ以来もうなかった。
あの人は、また消えてしまった。
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