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左保里
発見された二人は、力強く抱き合っていた。誰が見ても、互いを深く愛し合う、恋人同士に見える。
若い男女の早すぎる死は、世間に悲しみを与えた。そして、束の間ニュースに取り上げられた後、すぐに忘れ去られて行く。
いつだって、当事者の心を置き去りにしたまま──
「そんなに、彼が好きだったのね。左保里ちゃんは……」
骨壺に入った娘を抱え、左保里の母は呟く。
「こんな事に、なるのなら。いっそ、家に閉じ込めて、ずっと見守ってあげれば良かった……」
娘から自由を奪ってしまえば、自分から離れる事は無かったのに。母はそう、悔やんだ。だが、どんなに嘆いても、左保里は、帰っては来ない。
「大丈夫よ……。ずっとずっと、ママが貴女を守ってあげる。左保里ちゃんをひとりぼっちになんて、しないからね?」
左保里の墓には、分骨された海音のお骨が共に納められた。せめて天国では、結ばれるように。それが、息子を亡くした、海音の両親の願いだったから。
「左保里ちゃん。生まれ変わっても、ママの子になってね?」
左保里の母は、お墓に向かって話しかける。いつまでも、いつまでも……。
死が、左保里を自由にすることは無かった。だが、左保里が本当に解放されたかったのは、母の束縛からかも知れない。
けれど、真実を知る者も、語る者も。この世には、もう居なかった。
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