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あと少しで落ちていたはずのこの体は、後ろから抱き締められた事によりこの橋の上に留まっていた。
優しく咎めるように私の名前を呼んだその人物は、未だに強く私を抱き締めていて。
その温もりに、涙が溢れ出して止まらなかった。
「チアキ・・・?」
やっとの思いで口から出たその問いは、少し震えていて。そんな私に、彼は少し間を開けて答える。
「・・・そうだよ」
抱き締めていた腕を離して向き合うと見えた彼の表情は、何処か泣きそうに見えて。
「泣かないで、ユリ」
かと思うと、泣いている私の頬を拭って微笑む。それでもまだ涙で滲む視界が悔しくて、一つでも多く鮮明に彼を記憶しておきたくて。
そんな私に気付いてなのか、彼は私の頭をいつものようにぐしゃぐしゃと撫でる。
その手の温もりが、私に触れるその手が、彼自身が。
大好きなのに。
「家に帰ろう」
その一言が胸に突き刺さる。
家に帰ってしまえば、もう二度とチアキには会えないと確信してしまう。そんなの、そんなの絶対に、嫌だ。
「・・・いやだ」
「ユリ」
私の返答に彼はわかっていた様子で、そんな彼に対して苛々が募る。
チアキの馬鹿。約束したじゃんか。
「いやだ!!!」
つい口から出た声の必死さに、しまったと思った。こんな我儘困らせるだけなのに。違う、困らせたい訳じゃない。ただ、一緒にいたいだけなのに。なんでこうも、私達は離れてしまうのか。
「・・・じゃあ、一緒に来る?」
そうぽつりと言ったチアキの目は伏せられていて、少しだけ俯いた顔には影ができて表情が見えなかった。
風がまた、私のワンピースの裾を揺らす。
彼の柔らかそうな髪の毛も風に揺られていた。
「連れてって・・・っ、チアキと一緒がいいっ・・・」
縋り付こうとした私をチアキは複雑な顔で見つめて言う。
「ダメだよ」
「チアキ!!!」
・・・なんで、そんなこと言うの。一緒に連れて行ってよ。私には、チアキしかいないのに。
「・・・チアキと一緒にいれるなら、他には何もいらないのっ・・・!!」
「絶対にダメだ!!!」
「・・・っ」
悲痛な彼の表情を見て、思わず言葉を飲み込んだ。胸が痛くて堪らない。
沈黙も、痛かった。
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