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まちの足取りはここで途絶えた。この、小さな町の大きな公民館で。
しかし、青年は確信していた。
まちはあそこにいるだろうと。
青年の足は自然と早くなる。
まちに会いたいと思う反面、青年の心はどんどん暗くなっていった。
青年は知っていた。
自分の旅が、まちから始まったのだから。
自分の旅は、まちで終わることを。
やがて、公民館を含めた町全体を見下ろせる大きな橋の上の、町の由来と歴史が書かれた石碑の前に、ひとりの女性を見つけた。
初めて出会った時と、何も変わらず。
そのままでーー。
「まち!」
青年は叫びながらも駆け寄る。女性はーーまちは髪を靡かせながら、ゆっくりと振り返った。
まちが口を開く前に、青年は勢いのまま、まちに抱きつく。抱きついた時の衝撃でまちが2、3歩後ろに下がった。
「まち、まち……! ようやく会えた!」
まちは驚いて声が出ないのか、何度も口をパクパクとさせるばかりだった。それでも青年は続ける。
「まち……! まちの頼み通りに、町を救ったよ! この町は残ったんだ。土地開発は行われない。まちを救ったんだ……!」
青年はまちから身体を離すと脱力したように、その場に崩折れる。そんな青年の真上から、「あの……」とまちの控え目な声が聞こえてきた。
「あの。あなたは誰ですか? 町を救ったとかどういう事なんですか?」
青年はゆるゆると顔を上げると、驚愕の顔でまちを見上げる。
「誰って……。君はまちだろう?」
「私は確かにまちですが……。でも、あなたとは面識がありません。人違いではないですか?」
まちは首を傾げていた。そんなはずはない。青年は諦めずに話を続けたのだった。
「だが、私が知っているまちは君だ。君なんだ……。その声、姿、顔……何もかも私が知っている、まちそのものなんだ……!」
まちは首を振った。
「私はあなたを知りません。それよりあなたは私が見えるんですか!? 私の姿が見える人何百年かぶりに会いました!」
私は脱力した。尚もまちは話しかけてくるが、私の耳には全く入ってこなかった。
自分は何の為に、旅をしたのだろう。
まちの必死の願いの元にこの地を旅立って。だんだん弱っていくまちを見て動揺して。
一度は諦めた旅を、まちの為に続けて。
ーーその結果がこれなのか?
まちを救った代償として、まちに忘れられる事が?
まちに忘れられるくらいだったら、救わなければ良かった。
まちをーー町を。
自分が救った町は、今日も綺麗だ。
けれども、自分が救いたかったまちは。
もう、どこにもいないのだった。
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