魔法使いの指切り

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 ネイは、とっても明るくて素直な女の子。 長い髪をポニーテールにまとめて、いつも無地の黒いワンピースを着ている。   掃除も、洗濯だたみも、お皿を下げるのもお手伝いは好き。  そんなネイは小さな森の中の村で、村人からも家族からも愛されていた。 お母さんのクーリムグラタンが一番の好物。いつも、おかわりしている。  でも、もっとネイが好きなのは、空を飛ぶ練習だ。  今日も幼なじみのキイと、どっちが長くホウキに跨がっていられるか競争している。   キイがネイに尋ねた。 「ネイは、魔法使いになりたいのか?」 「それはなりたいよ! 魔法使いになって薬草を探したりお医者さんを呼んだり。伝令係には最低でもなれるじゃない」 「ネイらしいな」 キイは、笑った。ネイは、キイの優しい笑顔が好きだった。 「実は俺この森から街に出たいんだ」 「えっ」 ネイはホウキから落ちてしまった。どすんと尻餅をついた。 「大丈夫か、ネイ?」 キイがネイの腕を掴んで立ち上がらせた。 「ありがとう」 ネイは、びっくりしてしまったのでためらいがちにやっとキイにお礼を言った。 「なんで?キイはこの村が嫌いなの?」  ネイは真剣にキイの金色の瞳を見つめて尋ねた。 「むしろ小さな森だが居心地はとてもいいよ。最初はちょっとした興味だった。だが、今は村の外の街の書物に沢山触れたいんだ」 キイは、幼少から本が大好きだった。冒険活劇が特に気に入っていた。 ネイに読み書きを教えたのは、キイであった。 小さな頃から、ネイはキイのことを好きだった。一番落ち着く特別なクラスメートだった。 「キイ、村を出ても必ず戻って来てよ!」 ネイは普段は出さない大きな声を出していた。 「いつか、帰ってくるさ。ネイを独り残すことなんて出来ないからな」 許されるなら大好きなキイに付いていきたい。でも、ネイにしか出来ないことがあること彼女は知っていた。  ネイは涙をこらえて言った。 「指切りしよう、キイ。また一緒のベッドで寝ようね」 「ネイ大胆だな。俺も男なんだぞ」  キイは苦笑いしてた。でも、指切りは離しがたく暫く結んでいた。   彼は一ヶ月もしないうちにうまく飛べるようになって、街に出発していった。  ネイは、薬草から薬を抽出出来るようになった。時々鬱ぎ込むこともあるけど、キイが手紙と面白そうな本を送ってくれるから、元気に今日も頑張れる。  何より村人が喜んでくれるのが、楽しみになっていた。    ネイは思った。  キイに会えたら。  今度こそ好きだってきっと言える。  だから約束はもういらない。
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