ひとりぼっちのおじいさんが花を育てた理由

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この橋は、大好きな彼との思い出の場所。 この橋で出会い、告白され、登下校やデートの場所になった。 別れた今でも、気付けばここに足を運んでいる。 そんなある日の深夜。 私は彼と出会ってしまった。 「颯馬……」 澄んだ星空が広がる下、颯馬はまるで、一心不乱に何かを見つめていて。 私の言葉にも反応しなかった。 やっと、会えたのに。 「ーーってあなた! 感傷に浸っている暇があるなら、あの人を何とかして下さいよ!」 「うわっ!?」 突然背後から声がした。 振り返れば、闇に溶けるような黒装束に巨大な鎌を携えた、仁王立ちしている金髪の少女がいた。目を丸くしている私に彼女は続ける。 「あの人、もう半年以上もあそこであなたを待っているんです! そろそろ地縛霊になっちゃいますよ!」 「え、何どういうこと!? 地縛霊って……」 すると、少女はやれやれと肩をすくめた。 「……あなた、覚えてないんですか? 半年前、彼氏さんは病院に搬送されたじゃないですか」 ……ああ。そうだった。 颯馬は、あのまま亡くなってしまったんだ。 「もう、しっかりして下さいよね。地縛霊になったら成仏させるのが大変なんですから。あなたの愛の力で成仏させてあげて下さい!」 「ど、どうやって?」 「今は記憶を失っているんです。とにかくそれを取り戻して下さい! さあ早く!」 とりゃっ、と少女に背中を押されて慌てて駆け寄る。ぼんやりと前を眺めている颯馬に話しかけてみた。 「え、えっと……何見てるの?」 「……」 ちらりと虚ろな瞳を向けた後、川辺で蕾を閉じている花たちを指さした。 「……彼女は花が好きだったんだ」 「う、うん」 颯馬がぼんやりと呟く。 懐かしいな。私がキキョウの花が好きって言った時、いつかキキョウの花畑を見せてあげるなんて言ってくれたっけ。 「いっぱい植えられてるね。昔は何もなかったのに」 「……百本」 「え?」 「……百本目がようやく咲きそうなんだ。それを見せたら、きっと喜んでくれるかな」 ふいに、川辺でせっせと花を育てる人物が脳裏をよぎった。部活が終わった後も、卒業した後も、会社帰りの後も。 まさか、颯馬がこれを植えてくれたのか。 「……初恋だったんだ」 颯馬は続ける。 「彼女といるだけで幸せだった。いなくなってからも、ずっと忘れられなかった。……あの人だけだったんだ」 ゆっくりと、まっすぐにこちらを見つめて言った。 「僕が生きた人生で、ここまで好きになれた人は。彼女は他の誰かと幸せになれって言ってくれたけど……どれだけ多くの人に出会おうと、時が経とうと、君が好きだった」 だんだんと、暗かった空が明るくなってくる。真っ暗だった世界が、暖かい、朝の色に染まっていく。 「ありがとう。何十年も待っててくれて、守ってくれて」 「! ……うんっ」 抱きしめられたぬくもりは、昔と変わらない、大好きな彼のものだった。 山の隙間から顔を覗かせた金色の光に、一緒に包まれていく。 ひょいっと現れた金髪の少女が、汗を拭って笑った。 「はぁ……やっと成仏してくれるんですね! 颯馬さん、本当は何回も死期が近づいていたんですけど、いつもあなたが守っていたから死ななくって。おかげでこっちは上司に叱られて大変だったんですよ?」 「あ、ご、ごめんなさい」 「いいえ。二人揃って記憶をなくしていたもんですから、これはもう一緒に成仏させた方が良いと判断したまでです! さぁ、天国で思う存分イチャついて下さい!」 清らかな歌声が聞こえ、ふわりと白い天使たちが降りてくる。朝焼けの橙色の雲に光が差し、川辺がキラキラと宝石のように輝く。辺りの影は薄れ、鮮やかな緑が目を覚ます。 もう、一人じゃない。 私たちは、これからもずっと一緒だ。 光に包まれた橋の下。夜明けの景色には、百本の美しいキキョウが咲き誇っていた。 キキョウの花言葉…永遠の愛 ※99本は「ずっと一緒」、100本はプロポーズを意味します。
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