冷たくて穏やかな夜に

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 少し笑顔になったのを確認したからか、彼はゆっくりと立ち上がった。それを目で追って私は顔を上げる。 「それで、来年はここに来るのは無理ってことか」 「うん」  合点がいったという顔をする彼に私は小さく頷いた。  子どもが生まれたらドレスコードが必要なところでの食事も難しいし、お洒落なバーに行くことも、しばらくは無理だろうな。  そう思って言ったのに、彼は意外な言葉を返してきた。 「なら再来年にまた来よう」 「え?」 「このホテルの近く、観覧車のある大きな公園もあるし、二駅向こうには水族館もあるだろ。レストランは無理でも、別のフロアで家族向けのクリスマスバイキングもしてるし」  楽しそうに語りだす彼に私は目をぱちくりさせた。 「再来年は、三人で来よう。楽しみだな」  そう言って笑う彼に今度こそ涙が零れる。そして、それは止まることなく頬を伝った。  彼は目を白黒させて慌て始める。 「え、どうした?」 「私、大樹と結婚してよかった。大樹の子どもを授かれて、幸せだ」  本当に心から思う。この涙は不安からじゃない、嬉しさからだ。  彼はいつもそう。甘い囁きも、愛の言葉もほとんど口にしない。  けれどこうやって私のそばにいて、いつも安心させてくれる。そんな彼からいつも幸せをもらっている。 「俺も夢花と結婚して幸せだよ」  穏やかに笑う彼に私もようやく微笑んで返せた。おもむろに立ち上がって彼に身を委ねると優しく抱きしめられる。  きっと大樹は優しいお父さんになるんだろうな。
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