1話

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「隣座ってもいい?」 講義の始まる前、俺は見ず知らずの生徒にいきなり声を掛けられた。別に断る理由もないので、俺はどうぞと声を返したんだが、そいつはなぜかぴったりと俺の隣に座った。 「あ、あの。ちょっと近いんだけど……」 「あっ、ごめんね。今日初めて学校へ来たばっかりだから、まだ何も用意できてなくて、良かったら教材とか見せてくれないかな?」 「今日から?」 「留学先から編入してきて、今日からここへ通うことになったんだ」 編入してきたのか、俺は教材がまだないと言った生徒に、仕方なく半分見せてあげることにした。 つまり、今日初めて学校に顔を見せたってことは、俺のこと知らない。だから声かけてきたのか、なんとなく誰かに声を掛けてもらえたことが、すごく嬉しいと思ってしまった。 俺ってめっちゃ孤独だったんだな……。 「ありがとう」 そいつはにこっりと笑って、感謝を述べるとノートを机に広げた。 「留学ってどこ行ってたの?」 「アメリカだよ。そうだ、自己紹介してないね。はじめまして、西(さい)(おん)()(まさ)(おみ)です」 「はじめまして、俺は姫木陸」 互いは小声で自己紹介を済ませた。天王寺に負けず劣らず綺麗な顔をした、肌の少し黒い西園寺は、長い指をしていた。
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