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監督の「OK」で周囲の緊張が一気に解放された。
周りのスタッフが後片付けに入り、助監督の1人が中央に陣取って叫んだ。
「はい、今日の分は終了でーすっ!明日は午前9時から宝映第2スタジオで行いまーす」
「松賀くーんっ!良かったよっ!今、引っ張ってあげるからねー!」
監督は橋の下を見下ろしながら、命綱で宙ぶらりんになってる大亮役の松賀さんに大声で叫んだ。
私も監督につられて、松賀さんを見たが本人は監督に褒められたのか上機嫌のご様子だった。
「お疲れ様でしたっ!」
後片付けに奔走するスタッフの中をかいくぐりながら、付き人のマコちゃんが私の肩にコートを羽織わせ、暖かい缶コーヒーを渡した。
「ありがとう」
マコちゃんはいつも迅速に行動するので、助かっていた。
「いやぁ、松賀くんも良かったがサキちゃん。君も良かったよ」
缶コーヒーを飲んでると監督が今度は私を褒めてくれた。
「いえいえ、監督の指示が的確なだけですよ」
「でも君のあの不気味な笑みは君が作り出したものだ。これはいけるぞ。映画祭も視野に入れた方がいいかもな。君の演技が世界に見られるんだ」
監督は凄く嬉しそうだった。
恐らく、今日の一発撮りが上手くいったので安堵しているのだろう。
沈んでいく夕日を背景に抱擁から大亮を刺して、橋から突き落とす。
この映画のラストシーンだ。
簡単に思えるが、長い台詞とそれを自然体に見せる為の演技を用いらなければならないので、私は松賀さんと一緒に何度もリハーサルを行った。
その度に監督に何度も怒鳴られた。
だけど、厳しい特訓の成果もあってか、本番はスムーズにいってくれたので、私も監督も一安心だった。
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