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1 .世間はそれをベタ惚れと言う
「そんなに拗ねるなって」
前を歩く華奢な背中に声をかける。
「拗ねてません、怒ってるんです」
くるりと振り返り、上目遣いで睨んでくる大きな目も、寄せられた眉根も尖らせた小さな唇も、可愛いらしくも怒ってますと主張している。
そんな怒るほどのことしたか?と思っていたら、再びくるりと背を向けられてしまった。
天使の輪があるツヤサラな長い髪が、華奢な背中で柔らかく揺れる後ろ姿も魅力的ではある…が。
仕方ない。
「悪かった」
とりあえず、ここは年上の俺が折れといてやろう。
『おまえあの子にホント甘いな』とか言われるが、別にそんなんじゃない。
デキる男ってのは、時には適度に折れる柔軟性ってのを持ち合わせてんだよ。
「とりあえず謝っとこうって思ってませんか?」
…心を読むな。
「思ってない。機嫌直せよ」
まあ、怒ってる顔も可愛いが。
いや『ベタ惚れだよね』じゃねーよ。誰が見ても可愛いだろ、ただの一般論だ。
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