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【シーン2】日常
あれから1年が経った。
田舎町の片隅にある教会裏の墓地は、相変わらず閑散としている。
ま、墓地なんてもともと人が好んで来るような場所じゃないからな。
それに、ここは町で妙な噂も流れてるし。
めったに人が寄りつかないのも当然だろう。
地形の関係で、墓地は町よりやや低いところにある。
教会裏に階段があって、町の人はそこから入ってくる。
一応墓地は柵で仕切られているが、好きな時に入って来られるよう、門や錠などは設けていない。
にしても今日は人っ子1人、それどころかネコ1匹やって来やしない。
退屈なもんだ。
墓地は森と崖に囲まれている。
崖の上には屋敷が軒を連ねているのだが、全部こっちに背を向けてるし、町から隔絶された感が否めない。
高低差ひとつで、えらい違いだ。
…………。
1番手前に見える屋敷。
あそこの窓は、もう長いこと閉まったままだ。
いや、正確には、俺はあの窓が開いたところを見たことがない。
…………、…………。
その時。
***「おー」
ぽふ!
!?
気の抜けた声が聞こえたなと思ったら、何か降ってきた。
頭の上で何かがもぞもぞと動く。
おじいちゃん1「おお、レン君。ちょうど良いところに」
なんだ、じいさんか。びっくりさせやがって。
ぽふ、ぽふ、ぽふ!
なっ!?
おじいさん2「なんと。レン君じゃないか」
おじいさん3「なぁなぁレン君、聞いとくれよ~」
おじいさん4「わしら、とても良い事思いついたんじゃ」
おじいさん1「のうのう」
上から横から、じいさんたちが矢継ぎ早に話しかけてくる。
重いわけじゃないが、頭やら肩やらに乗っかったじいさんたちがもぞもぞと動くもんだから、うっとうしいことこの上ない。
しかも状況についていけない俺を差し置いて、じいさんたちはああだこうだと勝手に話を進めてやがる。
おい、俺に用があったんじゃねぇのかよ。
じいさんたちは下にいる俺なんかお構いなしで和んでる。
……こんの、じいさんども。
おじいさん2「よぉし。今晩は肝だめしやるぞぉ」
おじいさんズ「おぉー」
レン「だぁああああ! 降りろぉおお!」
おじいさんズ「わー」
じいさんたちが勢いよく宙に放られる。
多少力ずくでも問題ない。じいさんたちは、まあ俺もだが、痛みや怪我とは無縁だ。
あと、寒さや暑さも分からない。重さは勿論、触れられた時だって見えなきゃ分からない。
簡潔に言ってしまえば、目と耳しか頼りにならないってことだ。
その証拠に、じいさんたちは放り投げられてもケロっとしてる。
おじいさん3「なんじゃレン君、肝だめしは不満かのう」
おじいさん4「ひょっとしてレン君、お化け怖いんか?」
レン「うっせぇ! 幽霊が幽霊相手に肝だめしなんかやってられるか!」
つーかそれ、何が楽しいんだよ。
じいさんたちは、宙にふよふよ浮きながらキョトンとした顔で俺を見下ろす。
おじいさん1「そうかのぅ。良い案だと思ったんじゃが」
おじいさん2「にしてもレン君、元気じゃのう」
おじいさん3「うむ。若者が元気なのは良いことじゃ」
それよかこの頭に花が咲いたようなじいさんたちは、まず俺が怒ってることすら理解してないみたいだ。
――――。
――そう。
この町の墓地には薄気味悪い噂が流れている。
なんでも『お化けが出る』、とか。
レン「誰のせいだ、誰の!」
俺たちのことだ。
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