4人が本棚に入れています
本棚に追加
10月31日、下校途中の奇子の前に黒塗りの高級車が停まる。
「え? なに……?」
奇子が不審に思っていると後部座席のドアが開き、にこやかなすみれが出てきた。
「すみれさん! 何事かと思いましたよ」
見知った顔に、奇子は安堵の息を吐く。
「驚かせるつもりはなかったのよ。さぁ、乗って」
すみれは奇子の背中を押して、車に乗るよう促す。
「えぇっ!? いや、帰ってお店の手伝いを……」
奇子は喫茶店を経営する婚約者の顔を思い浮かべながら、やんわりと断る。
「大丈夫、許可はもらってるから」
「でも……」
「大丈夫よ」
すみれは渋る奇子を無理やり車に乗せると、運転手に目配せをする。車はゆっくり走り出した。
「あの、どこへ行くんですか?」
「私のお屋敷。今日はハロウィンですもの」
すみれは年甲斐もなく、無邪気に微笑む。
車は3階建ての大きな屋敷の前で停った。
「すごいお屋敷……!」
奇子は屋敷を見上げながら、感嘆する。
「まだ小さい方よ。さ、早く行きましょう」
すみれはぐいぐいと奇子の腕を引っ張り、奇子は苦笑しながらついて行く。
ふたりは3階の一室に入る。広々とした部屋の壁は全て鏡で、たくさんの服がショップのようにズラリと並んでいる。奥には何故か、試着室まであった。
「すごい……!」
「ふふっ、私のコレクションよ。奇子ちゃんに選んでもらうのは、あそこからね」
すみれは一際カラフルな衣装達の前に、奇子を連れていく。
「これ、普通の服じゃないですよね?」
奇抜な色合いで、手に取らなくても分かる。
「今日はハロウィンだもの。小道具もちゃんとあるわ」
そう言ってすみれが衣装ラックを動かすと、帽子や付け耳などの小道具が並んだ棚が出現した。
「こんなにたくさん……」
「なにがいいかしら? とりあえず、定番の魔女から着てみて」
すみれは黒とオレンジを基調としたワンピースを、奇子に手渡す。
「はぁ……」
奇子は生返事しながらもワンピースを受け取る。
「こっちよ」
マントや帽子、ステッキを持ったすみれは、奇子を試着室まで案内する。
「じゃあ、着替えてきますね」
「これも忘れずにね」
すみれは小道具を押し付けるように渡すと、試着室のカーテンを閉めた。
最初のコメントを投稿しよう!