三.白詰草

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「花にとって着物は普段着と一緒だからねー」と理香。 「でも源川さん、姿勢も良いし一つ一つの動作も綺麗だし、育ちが良いんだなぁって思うよ」 瑠衣の言葉に清花は俯いて照れた顔を隠した。それに他の三人は見惚れるように凝視した。長い髪をポニーテールに結ぶ清花は強さを感じさせ、凛として美しいが今の清花は御伽噺のお姫様のような「守ってあげたい」とさえ思ってしまうほどに可憐だった。 「あー、だめ。見つからない!」 四ツ葉のクローバー探しをしていたしほりが根をあげた。それに清花は顔を上げた。しほりは芝生に脚を伸ばし、天に溜息を吐いている。 「しほりちゃん、まだ探してんだ?」とかんなが聞いた。 「うん。でも全然だめ〜。ってあれ、星奈は何してるの?」 しほりに問われた星奈は逆に下を向いてせっせと手を動かしている。膝の上で白詰草が大きな輪を広げている。 「なんか白詰草がいっぱいなのを見たら花冠をつい作りたくなって。ほら、見て。やっと一つできたよ」 そう言って星奈はしほりの頭の上に恭しく乗せた。それにわぁっと歓声が上がった。瑠衣がきょろきょろ周囲を見渡しながらスマホを取り出し、素早く写真を撮った。 「瑠衣、悪い奴〜!」 かんなが小突いた。 「ここがフォトスポなのが悪い!」 「瑠衣、うちらも撮ってよ!」 理香が言った。それに皆がしほりと星奈の側に寄り、清花もそれに倣った。瑠衣がスマホを掲げる。 「はい、ポーズ! ーーー後でLANE交換しよ!」 瑠衣がそう言った瞬間、昼休み終了を予告するチャイムが鳴り、六人は急いで中庭を出た。 白色、菜の花色、中黄色の菱形の伊勢木綿に四ツ葉のクローバーが一つ、大きく描かれた染めの半幅帯。四ツ葉のうち、二枚は中に白詰草を敷きつめ、まるでクローバー型の窓から白詰草が沢山生える草原の景色を覗き込んだかのようだ。後ろの太鼓にも大きな四ツ葉のクローバーが背景の鉄緑色に映えている。清花は今日も出来栄えに満足した。毎日着ているものだから着終わった後のお手入れや陰干しも欠かさない。元々その約束で美千代から着付けを習ったし、着物そのものが大好きだからだ。 清花が初めて生活感圏の中に着物を意識したのは美千代だった。美千代は今は激減した赤坂芸者でそれも港区内で知らない者はいないほどの存在だ。男名の「柳吉」を名乗る彼女は春を売ること、客の庇護欲を駆り立てることを絶対に許さなかった。立ち振る舞い、言動共に風格を備えた彼女を、出会った人、会話をした人間は皆、尊敬の念を惜しまず、芸者という旧時代的な凝り固まった先入観を恥じた。後者の方は全て捨てきれない人間もいたが、表立って矢面に立つ人間はいなかった。美千代を悪く言えば言うほど口走った側の立場と印象がどんどん悪くなったからだ。
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